●サイクルツーリズムを活用した地域での消費購買行動促進システムの構築と実践
海野 麻恵(信州大学)
論文要旨▼
日本では、令和3年5月に第2次自転車活用推進計画を閣議決定し、4つの目標を掲げた。その中には「サイクルツーリズムの推進による観光立国の実現」がある。既に全国各地でサイクルツーリズムが推進され、ハード面の整備は着実に進んでいるが、ソフト面、特に地域でのサイクリストの消費購買行動を促進するための施策は不十分である。この領域について様々な角度から調査を行なったが、論考レベルにおいても先行研究が殆ど見当たらない。そのため本稿では、サイクルツーリズムにおいて地域、サイクリストそれぞれが抱える課題を整理し、その課題解決に有効であった、地域での消費購買行動促進システムの構築と実践について報告する。
斉藤俊幸・那須清吾
(高知工科大学大学院起業マネジメントコース)
論文要旨▼
肉用牛繁殖農業及び酪農業で新規就農した移住者と地区で代々繁殖農業及び酪農業を営農してきた経営者を対象にヒアリングを実施した。新規就農者は、家族と過ごす時間が生業より大切であり、地域で代々営農してきた経営者は、生業の成長・拡大が大切であると話している。新規就農者には競争的な志向はなく、敢えて補助金を使い、規模拡大を行い、収益を向上する姿勢は見られない。動物福祉、フードマイレージ、放牧等による社会的価値の創出に意義を見出している。バブル崩壊後に誕生した就職氷河期世代のみならずその後のZ世代を包括する考え方であり、彼らの非競争性の特性を踏まえ非競争世代と称する。
●地方自治体による親子ワーケーションの推進に関する研究-五島市・糸魚川市・厚沢部町の比較分析-
薗 諸栄(追手門学院大学大学院経営・経済研究科)
論文要旨▼
本研究は親子ワーケーションに早期的に事業に着手した3自治体(五島市、糸魚川市、北海道厚沢部町)へのインタビュー調査を行い教育環境の整備、さらにワーケーション意向との関係について明らかにすることを目的としている。研究成果として第1に首都圏在住者の子供の教育に関心ある富裕層の個人世帯に向けて長期的な地域間との人的交流が促進され、自治体のパイプラインが機能している。第2に情報発信として専用のポータルサイトを整備し、送り手の個人と受け手である自治体のマッチング機能を有している。第3に自治体政策の視点から、コワーキングスペースといったハード整備事業は促進されず、既存の宿泊施設や遊休施設を有効活用していた。
●須金和紙絵は地域のシンボルとなり得るか
寺田篤史(周南公立大学) 中嶋克成(周南公立大学)
論文要旨▼
中国地方の山間部には江戸時代以来の「紙漉き」が伝えられている地域が多数存在する。山口県周南市の北東部に位置する須金地区では産業としての紙漉きは戦後に一度途絶えたが、昭和50年代に伝統文化として復興を遂げた。その際に、和紙を利用して独特の技法によって行われる「和紙絵」と呼ばれる工芸が生まれた。地方の中山間地域の例にもれず、当地でも少子高齢化が進み、紙漉きおよび和紙絵の継承は危機にさらされている。本研究では、須金和紙絵が「新しい伝統工芸」として地域おこしのシンボルとなり得るかという観点から、紙漉き・和紙絵に対する地元民の意識を調査した。
●福岡県八女市星野村を事例とした空き家対策の実践研究
戸澤 理紗(八女市地域おこし協力隊)、田中 幹人(法政大学大学院理工学研究科)
論文要旨▼
近年、放置空き家の増加が全国で問題視されている。地域住民による空き家対策の事例が蓄積されつつあるが、その対策の詳細が明らかにされた研究はほとんどない。本研究では、福岡県八女市星野村における空き家問題を事例として、筆者自らが3つの空き家対策を実践し、その過程や実践知を整理した。実践内容は、空き家の片付け代行、農地付き空き家の取引支援、住民参加型ワークショップの3つであり、それぞれ空き家問題解決に向けて一定の成果を得た。本研究で取り扱った実践は、地域の新規参入者でもできる一方で、実践を進めるためには地域団体からの情報や協力者などの支援も重要であることがわかった。
● 飛騨市における広葉樹の多様性を活かした価値創造
-ビジネスエコシステムの視点に基づく事例分析-
論文要旨▼
近年、輸入材の価格高騰や国産材の需要増を背景として、国産広葉樹への注目が高まりつつある。その一方で、国産広葉樹のほとんどが木材チップとして安価に流通しており、広葉樹の付加価値を高められていないことが課題として挙げられる。本稿では、岐阜県飛騨市の広葉樹を活用した取り組みの事例報告を行う。飛騨市の取り組みでは、様々な主体による協調を通じて価値を創造しているが、この協調による価値創造を一つの「ビジネスエコシステム」として捉え、主体間のどのような協調関係を通じて広葉樹の価値が生み出されており、どのような点に課題が残されているのかを明らかにする。また、顧客が使用する商品価値の意味という視点から、広葉樹の付加価値についての検討を行う。
●IR誘致政策と市民-横浜市と和歌山県の比較から-
福井 弘教(横浜国立大学大学院 環境情報学府)
論文要旨▼
2018年の「IR整備法」(特定複合観光施設区域整備法)成立以降、国内初の対面式カジノ開業に向けた動きが活発化した。多くの自治体が誘致活動を推進したが、最終的な候補としては、大阪府・市、長崎県のみとなった。有力候補として目されていた横浜市では首長交代によって、和歌山県においては議会議決によって、IR誘致政策は消滅した。誘致に向けて、巨額の予算を計上したものの、なぜIR誘致は実現しなかったのか。その背景を探ることを目的として論考を展開した。考察の結果、IRによる経済的効果を基軸として推進してきたこと、形式的には合意形成が図られたが市民を中心とした十分な合意形成が図られておらず、行政主導、行政先行の合意形成が通底していた。
● 看護職養成大学における地域枠入試の現状分析と必要な戦略
福山祐介 (藤田医科大学医療科学部 / 法人本部広報部 , 三重大学大学院地域イノベーション学研究科博士後期課程)
論文要旨▼
国内で実施されている看護職養成大学の地域枠入試制度の概要と運用上の問題を明らかにし、地域保健医療の更なる向上・地域の活性化へ寄与することが本研究の目的である。国内の看護職養成大学へアンケート調査を行い、現状分析と必要な戦略について検討を行った。看護職養成大学は医学部以上に多くの定員を抱えているにも関わらず、地域枠入試の実施数自体が少ないことがわかった。医療従事者の偏在が叫ばれている中、そのバランスを取るためにも地域枠の定員増枠などが求められる。また、奨学金と連動した地域枠入試の充実、ターゲットアプローチ拡充を含めたマーケティング戦略(差別化戦略)等が重要であると考察された。
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