研究ノート
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公有林の森林整備を通じたJ-クレジット活用促進と地域活性化に関する一考察
石井洋二(東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻)
論文要旨▼
管理が十分に行き届かない森林が日本各地で散見される中、J-クレジット制度を活用して外部資金を地域コミュニティに流入させ、森林整備の財源に充当して森林整備を進めて行く試みに着目した。J-クレジットによる森林整備は主に公有林で実施されるケースが多く、J-クレジットの収益が森林整備費に占める割合が低いことが判明し、J-クレジットの収益を用いた森林整備を推進するためには、森林由来のJ-クレジットの普及拡大が必要であることが示唆された。また、普及拡大のためには、森林由来のJ-クレジットの価値を二酸化炭素の吸収量のみで評価するのでなく、森林の多面的な公益的機能を包含した多元的な評価の必要性も示唆された。
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地域資源を活かしたマーケットはどれくらい地域に裨益するか
~経済的側面を中心に~
稲垣 憲治(一般社団法人ローカルグッド創成支援機構)・鈴木 美央(東京理科大学)
論文要旨▼
マーケットは、自治体等により公共空間で開催されるため、地域にとって有益性が定量的示されることが重要である。本研究においては、アンケートや地域付加価値創造分析を用いて、マーケットの地域への経済的な効果を定量的に導出した。分析の結果、地域資源を活かしたマーケットは、一般的な地域外出資のショッピングセンターと比べ約6倍の地域付加価値を生み出し得ることが分かった。地域付加価値を高めるマーケットとするためには、可能な限り地域資源である魅力ある地域店舗による出店を主体とすべきことを定量的に示した。
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産学連携の地域活性化事業が地方中小企業の新規事業創出に与える影響
- 大学が研究員を企業に投入するプログラムが果たしたプロジェクト遂行の要因 –
内田考生(信州大学)
論文要旨▼
本研究は、産学連携による地域活性化事業が、事業規模拡大のために新規事業創出を図る地方中小企業に与えた影響を明らかにすることによって、地方中小企業の発展による今後の更なる地域の活性化に貢献することを目的とする。本研究では、産学連携の地域活性化事業である「信州100 年企業創出プログラム」によって、事業拡大に悩む地方中小企業に投入された研究員が、新規事業創出という方法で事業拡大を図るプロジェクトを遂行し、その遂行を可能にした要因についてフィールドワークという手法で分析したものである。その結果、「1.経営資源の投入」「2.適時適材の社員の積極的なプロジェクトへの参加」「3.経営理念の社内への浸透とプロジェクトとの一貫性」が必要であることが分かった。
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酪農産地の成長構造の解明
斉藤俊幸・那須清吾(高知工科大学大学院起業マネジメントコース)
論文要旨▼
日本最大の指定生乳生産団体は北海道のホクレンである。フェリー航路の開設、冷蔵技術の進化等により、近畿圏に安定的に生乳移出を行うことができ兵庫県の乳業メーカーに貢献している。しかし兵庫県酪農は生乳生産量が減少し、衰退傾向にある。兵庫県は北海道と比較して酪農業の大規模化に後れを取った。兵庫県は5 つの酪農組合を一組合にしようと兵庫県酪農農業協同組合を結成した。新会社が負債を引き受け、兵庫県酪農農業協同組合は再スタートしたが、負債が解消されたたんに大規模酪農家と小規模酪農家に組合が分裂した。小規模酪農家を支える丹波乳業に焦点を当て酪農産地再生モデルを検討した。
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北海道日本ハムファイターズの地域貢献活動
―地域貢献活動の継続の仕組みに着目して―
鳥山 稔(至誠館大学)・佐々木 達也(城西大学)・田島 良輝(大阪経済大学)
西村 貴之(金沢星稜大学)・神野 賢治(富山大学)・池田 幸應(金沢星稜大学)
論文要旨▼
本研究の目的は、北海道日本ハムファイターズが実施する地域貢献活動の実態を把握すること、活動を継続するための仕組みを明らかにすることである。地域貢献活動の実態把握には球団公式HP のニュース記事を用い、集計を行った。また、球団公式HP と関連する文献を用い、地域貢献活動の継続の仕組みについて検討した。本研究の結果より3 つの知見が得られた。1 つ目は、年間を通して多様な地域貢献活動を継続的に実施していること。2 つ目は、同じ地域と何度も交流する機会を持っていたこと。そして3 つ目は、ファンからの収益や寄付をファイターズ基金に積み立て、その資金を地域貢献活動に充てていたことである。ファンがチャリティーオークションや寄付等で球団を支え、その資金を原資に球団が地域社会を支えるというモデルは、今後のプロスポーツの地域貢献活動の形に有益な示唆を与えたと考えられる。
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地域の潜在的魅力発掘を考える場への地域外者参加の効果
オンラインワークショップを用いた介入実験
永井楓・当麻哲哉・林美香子(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科)
論文要旨▼
観光は、団体旅行から個人のニーズを満たす旅へと変化している。近頃では、地域資源を価値にする為、観光資源として地域の宝を再発掘し、戦略策定をする必要が指摘される。本研究では、地域外者の力を借りる事で地域資源の発掘に関する有効な効果を発揮できると考え、地域内者を集めた集団に地域外者を参加させる検証を実施した。その様子を記録し、逐語録を作成後、修正版・グラウンデット・セオリー・アプローチ(M-GTA 分析)を用いた。その結果、地域に外部から長期的に携わる者でなくても、地域に興味がある状態や地域外者がその地域と他地域を比較する行為によって、地域内者の地域の見方を改め、魅力再発見を強く促す可能性を明らかにした。
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地域包括ケアシステムの構築に向けた対話型アプローチを活用した高齢者一人ひとりの人生設計デー
タの収集法に関する研究-三重県志摩市浜島町浜島地区・大王町波切地区を対象として-
永野 聡(立命館大学産業社会学部)
論文要旨▼
本研究では、包括的な地域ケアシステムを構築するための基盤となる構成要素に着目した。本研究の目的は、地域包括ケアシステムの受益者となる高齢者一人一人の人生設計データを収集する方法を提示することである。また、「筆者がまちづくりや人材教育の現場で培ってきた研究手法(対話型アプローチ)を用いることで、地域の医療従事者に有用なデータを提供できるのではないか。」との仮説を得た。結果として、対話型アプローチにおいては、(Ⅰ)個別方式(インタビュー)、(Ⅱ)小集団方式(「60 歳からの人生ゲーム」を用いたワークショップ)いずれでも有益な人生設計のデータを入手する事が出来た。
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地方公共団体における評価制度の発展モデル - 仮説と検証 -
論文要旨▼
本研究の目的は、地方公共団体における評価制度の発展モデルの仮説を提示し、その発展モデルの仮説を3市の事例を観察し比較検証することである。発展モデルの仮説は、これまでの量的調査及び理論的先行研究から構築した。事例は、質的データの信頼性が高い3市を選択した。検証の結果、発展モデルの仮説は暫定的に受け入れることができる。残された課題は次の2点である。公開されている事例は優良事例が多いため、選択バイアスが発生している可能性があること。評制度を導入していない、あるいは、かつて導入していたが現在は廃止している地方公共団体があること。今後、これらの事例を調査し、発展モデルの仮説の修正を検討する必要がある。
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地域内関係人口による都市と里山が連携した地域づくり方策に関する考察
~金沢市東原集落での取り組み~
松下重雄(長野大学)
論文要旨▼
本論では、地方都市の都市住民とその近隣エリアの農山村の地域住民が連携する新しい地域づくりのあ り方について、関係人口の観点から事例研究をおこなった。具体的には、地域外の人材によって構成され るNPO とともに展開される金沢市の里山地域・東原集落の地域づくりの取り組みから、「地域内関係人口 によるまちと里山が連携した暮らしのモデル」をつうじた魅力ある地域づくりの可能性を示した。その構 造は、①強度の異なる多元的な関係人口の関与と②農村地域住民とNPO による新しいコミュニティの形 成をつうじて、③農村集落との近接性を活かした新しいライフスタイルを実現させることが特徴である。
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地域イノベーションの一般住民への普及を促進する自治体広報の研究
-徳島県神山町「町民町内バスツアー」事業の参加者体験の分析を通じてー
三⽊裕⼦・坂倉杏介(東京都市⼤学)・⾼⽥友美(神⼭つなぐ公社)
論文要旨▼
先導的な取り組みによって地域の活性化が始まった後、一般住民にも新しい取り組みの情報が伝わり受容
されていくことが持続的な地域づくりに不可欠である。本研究では、「地方創生の取り組みや町の新しい動きに関する情報」を一般的な住民に浸透させていく効果的な自治体広報のあり方を検討するために、神山町が広報事業として住民向けに実施しているバスツアーを対象に、参加者の体験を特定するとともに、イノベーション普及理論を援用してマジョリティ層への普及の実態と要因を検証した。この結果バスツアーは、地域に既にある住民グループのネットワークによって、マジョリティ層を中心に関心度合いの異なる住民が同時に参加しており、個別伝達ではなかなか普及していかない情報を伝える自治体広報として有効な手法であるということが確認できた。
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中国における高齢者の介護ニーズ及びその影響要因に関する研究
- 市場セグメンテーションの視点から -
劉 利,野田博行,高澤由美,中島健介,小野浩幸(山形大学)
論文要旨▼
日本を含めた先進諸国では人口減少と高齢化が大きな課題となっている。地方圏は特に深刻な状況にあり、地域活性化を論じるうえでは高齢社会の課題を避けることはできなくなっている。このため、諸外国の事例等を参考にした高齢社会への対応に関する検討が求められている。特に、介護保険制度の導入以後は、要介護者がサービスを自由に選ぶ「準市場」が社会的に創出されることになるため、マーケティング理論に基礎をおく研究の重要性が増している。
そこで本研究では、2020 年に介護保険制度が導入される中国を対象として、「CHARLS 中国健康和養老追踪調査」を用いて、生活ケア、医療ケア、精神的ケアという3種類の介護ニーズについて、市場セグメンテーションの仮説に基づく介護ニーズの分析を行った。その結果、精神的ケアに関する介護ニーズが最も高いこと、生活ケアに関する介護ニーズでは子と同居する高齢者が年齢を重ねるほどニーズが高くなること、医療ケアに関する介護ニーズでは都市部の子と同居していない女性が、精神的ケアに関する介護ニーズでは農村部の婚姻していない女性がより高いニーズを有していることが明らかとなった。
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