研究ノート
|
● |
内発的発展論からみたBOPビジネスの農村活性化
-インド・ドリシュティ社を中心として-
足立 伸也(法政大学大学院博士後期課程)
論文要旨▼
内発的発展論は、地域の特徴を踏まえ、地元人材が主体となり、発展を考えるアプローチである。本研究では、宮本(1989)の内発的発展論を分析枠組みとした上で、企業のBOPビジネスを通じた途上国の農村活性化の可能性を論じた。事例企業は、インド農村で20年以上BOPビジネスを実施するドリシュティ社とし、同社が農村にどのような影響を与えているかを分析した。以上の検討を通じて、農村地域を巻き込むビジネスモデルにより、農村起業家、農村社員(モビライザー)の雇用が生み出され、キー・パーソンである農村起業家とモビライザーを介した地域住民のニーズに基づく商品・サービスの提供を通じて、農村活性化にも繋がっている点を明らかにした。
|
● |
最低賃金の地域雇用への影響
――東北6県ハローワークデータにおける傾向
飯田泰之(明治大学政治経済学部)
論文要旨▼
最低賃金は、地域間の経済状況の異質性に配慮して都道府県別の設定が行われている一方で、都道府県内では同一の最低賃金が適用される。最低賃金からの影響が都市規模・労働市場規模によってどのように異なるかを知ることは、都道府県内各地域における雇用政策を考える上で、重要な意味を持つ。本稿では、公共職業安定所(ハローワーク)における求人・求職バランスシートに注目することで、都市圏・雇用圏毎の労働市場変数を収集し、労働市場の規模による最低賃金の影響差について東北地方における傾向を整理した。その結果、最低賃金の上昇が労働供給を刺激する効果については小都市・郡部等でより大きくなる傾向があること、最低賃金上昇の労働需要拡大効果は都市部において相対的に強いことなどが導かれた。また、最低賃金制度からの影響が大きいとされるサービス・販売職については、当該産業の有効求人倍率に負の影響を与える可能性があることなどもあわせて示唆される。
|
● |
地元住民との関係性と社会的葛藤に関する空き家移住者と新築移住者の比較分析
-長野県池田町の空き家バンク制度を事例に-
伊藤将人 (一橋大学社会学研究科博士後期課程)
論文要旨▼
近年、多くの地方自治体では移住促進と空き家解消を目的に空き家バンク制度の設置が進んでいる。先行研究では空き家への移住がコミュニティとの関係づくりを比較的容易にするなど指摘されてきたが、住まいの違いと制度利用の有無で関係づくりに差があるのかは確認されていない。本稿では長野県池田町を事例に、空き家移住者と新築移住者で、地元住民と形成する関係性や社会的葛藤に差があるのか、それに空き家バンク利用の有無は影響を与えるかを調査した。結果、空き家移住者は新築移住者より地元住民との社会的葛藤をかかえる傾向が明らかになった。理由として居住地の違い、仲介方法の違い、期待値の違いが影響している可能性が示された。
|
● |
観光教育の自律性と次世代人材の自己形成過程に関する研究
‐地域風土のコンテクスチュアリズムに導かれる教育観に着目して‐
衣幡 征治・上山 肇(法政大学大学院政策創造研究科)
論文要旨▼
長く観光産業への貢献を担ってきた観光地域が停滞しつつある現在、観光教育もまた自律性が問われている。今後あるべき観光教育の方向性は、その比重を学習者の自己形成の本質に求めることにより見出されるのではないかと考えるが、本稿で行った観光教育の現状と専門家による旅の経験や地域及び教育活動を記述した言説による分析からは、初等中等教育を補完する周辺教育の役割や高等教育による実践教育の捉え方、また海外への旅から得られる精神的価値観や地域風土に対するコンテクスチュアリズムにその可能性を見ることができた。
|
● |
新型コロナウイルス感染症による地域生活者への影響
―フードバンクの食品提供依頼書の分析から―
論文要旨▼
2020年初頭より新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、フードバンクにおける食料提供のニーズが急増した。そこで、本研究では生活に困窮する世帯の実態について明らかにすることを目的に埼玉県で活動するAフードバンクに寄せられる食品提供依頼書の分析を行った。調査期間は2020年1月から7月とし、月別依頼件数、利用者の年齢・性別、世帯構成等を分析した。分析の結果、ひとり親世帯や若年世代、年金だけでは生活ができない高齢者等から食品提供依頼があることが明らかになった。今後、経済不況の影響を大きく受けやすい世帯が困窮状態に陥らない支援が必要である。
|
● |
我が国における地域ブランディングの特性に関する考察 -海外との比較を踏まえて-
岩田賢(東京都立大学大学院)
論文要旨▼
我が国における地域に関するブランディング研究につき、文献レビューを通じ、その系譜や目的等を整理し、海外との比較を踏まえ、その特性を明らかにした。我が国の特性としては、海外との比較において、①マーケティング理論の適用の違い、②研究対象の違い、③対象範囲・スコープの違いの主に3点の相違を有することが確認された。こうした我が国の特性を踏まえ、まちづくりなど地域社会重視の取組みと融合した日本型地域ブランディングの制度設計の必要性や、地域ブランディング・マネジメントに関するモデル化につき、政策的インプリケーションを提示。
|
● |
地方新聞記事を対象にしたテキストマイニングの試み
-6次産業化と地域商社をキーワードとして-
内山大史(弘前大学)
論文要旨▼
地方創生を志向した、地域での人材育成事業は引続き重要な取組みであり、地域の現状を踏まえたうえで、適切な 情報・データ分析を行い活用することが必須となる。これまで全国紙レベルの新聞記事のテキストデータを対象とした可視化の検討はいくつか報告されており、その有効性が注目を集め始めている。本研究では、地域活性化に資するために、より地域に根差した情報が掲載されている地方紙の記事を対象としたデータ分析と可視化が有効か検討を行った。キーワード「6次産業化」および「地域商社」それぞれについて4つの概念にコーディングし、年次変化を確認した結果、その変容を可視化するのに十分有効であるとの認識を得た。
|
● |
アントレプレナーシップ教育におけるLEGO®︎ SERIOUS PLAY®️の活用可能性
―四万十町における社会起業家育成プログラムを事例としてー
岡本廉(高知大学大学院)・須藤順(高知大学)
論文要旨▼
本稿では、アントレプレナーシップ教育におけるセルフアウェアネスの重要性に注目し、その育成に向けたLEGO®︎ SERIOUS PLAY®️(LSP)の有効性を検証することを目的としている。具体的には「地域イノベーター養成講座(高知県四万十町)」の受講生を対象としたテキストマイニング(LSPプロセスの振り返り)と、質問票調査(Grit及び自己効力感)を実施した。その結果、受講生の思考や感情などに対する認知行為と、自分自身の価値判断や意思決定に基づく対象についての言説の表出が確認された。また、Gritとその下位尺度である情熱への正の影響、自己効力感への負の影響が示唆された。
|
● |
感染症拡大による地方移住への意識変容
論文要旨▼
2020年に感染が拡大しはじめた新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言発令により,多拠点居住ならびにワーケーションへの意識が高まっている.そこで,本研究では緊急事態宣言発令前と発令時における多拠点居住ならびにワーケーションに対するパネル調査を行い,感染拡大期の意識変容について明らかにする.
分析結果より,新型コロナウイルス感染症流行後に多拠点居住およびワーケーションに興味を持った可能性が高いが分かった.特に多拠点居住への興味は男性で年代が若いほど興味を持つ割合が高く,ワーケーションに対しては,女性で年代が高いほど興味を持つことが分かった.
|
● |
政策に民意を反映させる運動の在り方についての一考察
―霞ヶ浦高浜入干拓事業を例にして―
菊地章雄(国立環境研究所,NPO法人霞ヶ浦アカデミー)
論文要旨▼
住民運動は政府や自治体に対し働きかけにより民意を伝える手段であるが、運動成功の要因について運動理論を評価したものは少ない。本研究では、霞ヶ浦高浜入干拓事業とその事業に反対する住民運動を取り上げた。霞ヶ浦高浜入干拓事業は、約1,400haの農地を造成する、国内の湖沼干拓では八郎潟に次ぐ規模の干拓計画であったが、1970年代に中止となった。中止の理由は、コメの余剰や水需要増加とされているも、住民運動についての評価は少ない。そこで、霞ヶ浦高浜入干拓事業に対する住民運動について、コミュニティ・オーガナイジングの運動理論と比較することで評価した。この住民運動が長期にわたり継続的に、かつ組織的に運動を展開したことにより、民意が反映され事業が中止に至ったと結論した。
|
● |
地域活性化に資する公共空間における公共性の実現プロセスに関する考察
―紫波町オガールプロジェクトの市民参加型公共施設整備の事例から―
東海林伸篤・風見正三(宮城大学大学院事業構想学研究科)
論文要旨▼
本研究では、公共施設の公共性の要素に着目し、施設整備プロセスにおける市民参加の効果と専門家と行政職員の役割を明らかにすることを目的とする。本研究において対象事例とした、岩手県紫波町オガールプロジェクトの紫波町情報交流館は、紫波町長の「対話の町政」の方針を踏まえ、市民参加型により整備され、結果として民間テナントの収益向上につながる集客施設として機能している。検証の結果、市民参加により図書館の概念の拡張され、行政職員・専門家との協働が、共有する目的を明確化するとともに市民に開かれた施設整備につながったことを明証した。
|
● |
都市空間を活用した新興コンテンツのスタンプラリーイベントの類型と特徴
石陽(佐賀大学 工学系研究科 システム創成科学専攻)
有馬隆文(佐賀大学 芸術地域デザイン学部)
論文要旨▼
本研究は日本で開催された47件のアニメなどの新興コンテンツを活用するスタンプラリーイベントを対象として、イベントを開催する都市の規模、使用するコンテンツの特徴と都市の関係、また、イベントの目的地に使われる都市空間とイベントに使用されるコンテンツとの関係性、イベント目的地の分布パターンと回遊性について分析を行った。それらの特徴を踏まえて、主成分分析とクラスター分析を用いて、新興コンテンツのスタンプラリーイベントを「交通利用促進型」「広域聖地めぐり型」「市街地聖地巡り型」「観光商業調和型」「経済活性化促進型」の5類型に分類することができ、各類型の特徴を明らかにした。
|
● |
環境負荷低減を目指すMICE:GMsのしくみと地域にもたらされる副次的効果に関する考察
高澤由美(山形大学)
論文要旨▼
オーストリアでは国レベルで環境負荷の低減に取り組んでいる。MICE産業においても環境負荷の低減を目的とする制度GMsを創設し業界全体で廃棄物や二酸化炭素の排出を減らそうとしている。本稿ではこのGMsの仕組みとGMsに取り組むことによって地域にもたらされる副次的効果についてオーストリア・チロル地方の事例をもとに制度や開催実態を考察した。その結果、GMsは認証制度であり、定められた基準を満たせば着実に環境負荷の低減につながるしくみが整っていること、そしてGMsに取り組むことによって地域が得られる副次的効果は、地域資源を生かしながら地域や組織のイメージの向上が期待できる点にあるといえる。
|