研究ノート |
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非営利組織の協働に関する一考察
‐大須大道町人祭実行委員会と大須大道町人祭ボランティアを事例として‐
藍場 将司(名古屋大学)
論文要旨▼
本稿では大須大道町人祭をめぐる組織間の協働を事例とし、非営利組織との協働に必要な要素について、組織の自律性とコミュニケーションの観点から検証を行った。今回の事例では目的の異なる二つの組織が「町人祭」を共通項に協働を果たしており、両者の自律性が保たれていた。また町人祭ボラの沿革から、組織として拡大するとともに自律性を得た反面、実行委員とのコミュニケーションの機会が減少していた。しかし協働が成立している事例と果たせていない事例から、自律性とコミュニケーションは二律背反ではなく、双方を満たすべきであり、また非営利組織はその組織構造が流動的であるため、自律性とコミュニケーションの変化に注目する必要があると考察した。
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地域外からの来園者による地域振興活動への参加可能性
石井洋二(東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻)
論文要旨▼
千葉県F市自然動物園へのF市内からの来園者とF市外からの来園者との間で同自然動物園周辺地域の猿害に関する認識の相違が明らかとなった。また、来園リピート数が増加しても、猿害を認識していない来園者が認識している来園者を上回っていた。来園者の地域の実状に係る認識向上のため、同自然動物園からの当該地域に関する情報提供手法に何らかの工夫が必要であることが示唆された。将来的に地域内の住民のみならず、地域外の住民をも含めた広範囲な関係者が関与する包括的な地域の野生生物資源管理の試みが地域振興へとつながっていくことを期待したい。
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地域経済効果を高めるまちづくり事業の運営形態
~「まちやど」を対象とした地域付加価値創造分析の適用~
稲垣 憲治(京都大学)
論文要旨▼
まちづくり事業実施に際しては、地域経済効果を高めることが重要である。本研究は、「まちやど」hanareの事例を対象に、これまでドイツで研究されてきた地域付加価値創造分析を適用し、地域経済効果を分析した。その結果、宿泊客の地域店舗への支払いによる効果が「まちやど」事業がもたらす地域付加価値の約3割を占め、町で旅行客をもてなす運営形態が地域付加価値を押し上げていることが分かった。また、資本等が地域外である従来型のチェーンホテルを設定し、地域付加価値の比較を行ったところ、hanareが5倍の値となった。本研究では、まちづくり事業の運営形態によって地域経済効果が大きく変化することを実証した。
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地域における阿波踊り連の役割―移住者と受入側住民の関係構築に着目して―
小田史郎(慶應義塾大学)・高田友美(神山つなぐ公社)・坂倉杏介(東京都市大学)
論文要旨▼
地域活性化の文脈において地域の価値の再定義など移住者の視点が注目されることが多い。他方、移住後の地域への定着についてはまだ問題が多く残っており、その中でも地域における関係構築は重要な課題と言える。本研究では、徳島県名西郡神山町の桜花連を事例に、地域の阿波踊り連が移住者と地域住民の関係構築に対してどのような役割を果たしているかを明らかにすることを目的として調査・分析を行った。その結果、連員の多様性や勧誘といった行為が移住者の入連につながり、また交流を通じて形成される桜花連内の関係性や神山についての理解が桜花連外の住民との関係構築に寄与し、移住者が町内で連員としての立場を獲得することが示唆された。
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SDGsを意識した地域づくりに小学校社会科の地域学習副読本は活用できるか
論文要旨▼
SDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までの達成が目指されている世界共通の目標である。本稿では、これを意識した地域づくりに、小学校社会科の地域学習で使われることの多い市区町村単位の副読本を活用できるかを検討する。奈良県広陵町および兵庫県香美町の副読本を用いて教員研修や授業を実践し、その結果を整理・考察した。自地域の過去が途上国の状況と類似していることを見出すなど「グローカル」な学びにつながること、地場産業や第一次産業に関する学びの動機付けにつながること、地域の未来をどうかたちづくるかという観点から学校教育における地域学習を再構成する契機になることなどが明らかになった。
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地域のハイテク中小企業における各種情報源の重要度とイノベーション
鈴木 勝博 (桜美林大学)
論文要旨▼
わが国の製造業のすそ野を支えるハイテク中小企業群について、プロダクト・イノベーション、ならびに、プロセス・イノベーションの創出時、社内外のどのような情報源が重視されているのかを調査し、また、それらの寄与の有意性について、地域の観点を交えながら分析した。オスロ・マニュアルに準拠したアンケートデータにもとづき、対象企業群がアグレッシブなイノベーション創出活動を行っていることを示すとともに、(1)「顧客」・「大学」・「サプライヤー」といった複数の外部情報源を並行的に重視していること、ならびに、(2) 「社内リソース」も同時に重視していることを示し、また、あわせて、(3)「市場をリードするプロダクト・イノベーション」の創出時には、「社内リソース」が有意に寄与すること、を示す。加えて、各種イノベーションの創出に際しては、企業が集積し、情報源の面での有意性をもつであろうか「東京」やその近郊(「北関東」、「南関東」)に立地することが、必ずしも常に優位にはたらくわけではなく、創出するイノベーションの種類によってその効果が変わることを示す。
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東日本大震災の記念碑等の活用について
ー岩手県内の事例を中心にー
髙野 俊英(法政大学大学院)
論文要旨▼
本研究は、東日本大震災の記念碑等の活用について岩手県内の事例を中心に、宮城県内や都市の災害に取り組む東京23特別区や東京都多摩地域における災害の記念碑等の活用状況から、記念碑等の今後の利活用とその役割について考察した。
なかでも新たな震災遺構等と連携する利活用では、震災の復興支援と震災の記憶を未来に残すための取り組みが行われており、住民の防災意識を高める防災学習等に生かすとともに、復興支援イベント等での地域の賑わいを取り戻す交流の場としても活用されている。また、地域の観光等との連携においても地域の活性化に資する文化資源として継承・活用することで地域の絆を強め災害時の住民の自助・共助の防災につながる役割が示唆されていた。
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アニメ聖地における「キャラ縁」の形成
谷村要(大手前大学メディア・芸術学部)
論文要旨▼
本稿は、伊藤剛のマンガ表現論で示された「キャラ/キャラクター論」を足がかりとして、従来のコンテンツツーリズム研究ではそれほど着目されてこなかったファンの「読み」について論じる。「アニメ聖地」はアニメ作中で描かれることで「聖地」とみなされるが、地域の取り組みの結果、そうみなされたり、キャラクターの「存在感」ある構成要素(「キャラ」)が地域資源と結びついたりしたことで「聖地化」することもある。本稿では後者の事例を取り上げ「キャラ」の「読み」を共有するファンと地域住民により「キャラ縁」(および「キャラ縁」の「聖地」)が形成される状況を指摘する。
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観光まちづくりにおける人材確保と育成のメカニズム
――起業プログラムNCL西会津を事例として――
論文要旨▼
本研究の目的は、観光まちづくり人材の確保と育成のメカニズムを明らかにすることである。そこで、福島県西会津町という人口6,000人の小さな町で、先進的に人材確保と育成を手がける、一般社団法人BOOTの取り組みに注目した。インタビュー調査の結果、定住を強制せず、起業を目的とした独自の採用方法を活用した人材確保と、後発的に開発が困難と言われる、態度・自己概念・価値観という中核能力を、仕事を通して日常的に醸成している人材育成サイクルが明らかになった。本研究から、観光まちづくり人材育成における能力開発モデルが示唆された。
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産業支援機関による地域資源を活かした
商品開発支援プロジェクトの成果と参加者の評価に関する研究
―静岡市産学交流センターによる静岡おみやプロジェクトの事例―
崔 瑛(神奈川大学)
論文要旨▼
本研究では、静岡市の外郭団体である静岡市産学交流センター(B-nest)による地域の食資源を活用したお土産開発支援の取り組み「静岡おみやプロジェクト」の事例を取り上げ、教育・支援内容に対する参加者の評価、参加者が抱える課題、参加者のプロジェクト後の変化やプロジェクトから得たものについて、企業規模別に分析・把握した。プロジェクトを通した地域の中小規模事業者への支援の現状と課題、今後の方向性を検討し、10年以上継続している当該プロジェクトによる一定の成果や影響に関する示唆を得た。
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リスクと税率がみかん耕作放棄地の再生と柑橘生産活動に及ぼす影響評価
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
論文要旨▼
神奈川県小田原市では、農家の高齢化に伴いみかんの樹園地の耕作放棄地が年々増加している。耕作放棄地を再生させ、その農地を再活用することが急務となっているが、耕作放棄地を再生させる上で農地を整備する費用やその農地に植樹する苗木費用が大きな負担となる。本研究では、耕作放棄地を再生した農地で柑橘生産することを想定し、農家の納める税率や天候不順・鳥獣害などのリスクが、耕作放棄地の整備費用と苗木費用の回収期間への影響、さらにはNPV(Net Present Value)に及ぼす影響を評価した。その結果、農家の納める税率の軽減と鳥獣被害などのリスク対策が、耕作放棄地の整備費用と苗木費用の回収期間の短縮、NPVの向上に大きく寄与することを示した。
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地域経済循環構造を用いた都市連携基準
原田 魁成(金沢大学 人間社会環境研究科)
寒河江 雅彦(金沢大学 経済学経営学系)
論文要旨▼
本稿では都市雇用圏及び連携中枢都市圏等の圏域を構成する定義に対し、地域経済循環構造の尺度を用いて議論する。地域経済循環構造を表す3つの構成要素「生産(付加価値額)、分配(所得)、支出(消費・投資)」の観点から、圏域外との経済的依存関係を見る目安として地域経済循環率が100%を超える圏域が望ましい都市圏であると考えると、連携中枢都市圏は34圏域中7圏域、大都市雇用圏は100圏域中30圏域が該当する。また地域経済循環率と雇用者所得、第2次産業の労働生産性の間にはそれぞれ強い相関が見られることから、第2次産業が圏域の経済的自立性を支える核となる産業であることが地域経済循環率を用いることで示された。
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オンラインスポーツツーリズムにおける参加動機と開催地への愛着に関する研究
-『東北みやぎオンライン復興マラソン』と『名古屋ウィメンズマラソン2020』の事例から-
藤田 美幸( 新潟国際情報大学 )
論文要旨▼
本研究では、昨今オンライン上で実施されているスポーツイベントをオンラインスポーツツーリズムと捉え議論した。その中でオンラインマラソン大会を対象にし、参加者における参加動機や開催地への愛着はどのようなものかを明らかにした上で、その特性により今後のオンラインスポーツツーリズムの開催に関する方策について検討することを目的とした。そのため開催された2つの大会を事例とし参加者の投稿や発話について内容分析をおこなった。その結 果、オンライン上でも従来のマラソン大会と同様な参加者の参加動機づけの中で開催地の地域愛着に影響を及ぼす「結びつき」と「開催地の魅力」が確認された。また開催地では、オンライン上でも参加者とのタッチポイントを増やしエンゲージメントをより強く実現する施策を講じる必要があることを示唆した。
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