研究ノート |
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新興ワイン産地における小規模ワイナリーの存立構造に関する実証的研究
―北海道を事例としてー
石川 尚美(東京農業大学大学院 生物産業学研究科)
論文要旨▼北海道では毎年ワイナリーの開業が相次いでおり、2018年には「地理的表示(GI)」を取得、国内外から注目を浴びている。しかし、日本の新興ワイン産地に関する研究は未だ少ない。本研究は、実態調査に基づき、北海道におけるワイン産地の形成要因やワイナリー経営の二極化を指摘し、小規模ワイナリーを多角的に分析、考察したものである。その結果、起業動機や経営方針には経済合理性のみならず、独自の価値観に基づいた品種選択や販売戦略があること、新規参入を促進する多様なインキュベーターの存在、ワインクラスターが実際には部分的、偏在的なレベルに留まっており、多くのワイナリーが新規就農や農業の六次産業化としてのワイナリーへの道を歩んでいる事が明らかになった。
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社外のプロボノを活用した地域の中小企業の価値創造プロジェクト
NPO法人G-netによるふるさと兼業の事例よりー
今永典秀(名古屋産業大学)
論文要旨▼本研究では、イノベーションを実現する人材やノウハウが不足しがちな地域の中小企業が、外部のプロボノ人材を活用して、3か月間プロジェクトチームとして事業の価値創造に向けて協働する「シェアプロジェクト」及び「ふるさと兼業」の事例より、事業の概要と成果を調査分析した。本事例は、NPO法人G-netが主体となり、2018年9月から実施し、コーディネーターとして、企業とプロジェクト設計や、参加者の募集・マッチング、プロジェクトの伴奏支援の役割を果たした。この伴奏支援プログラムにより、地域の中小企業による価値創造の実現事例と、大手企業の研修プログラムとして機能することが確認できた。また、参加者が地域の中小企業における実践経験によるスキルアップに加え、地域企業の担当者にとってのリーダーシップ発揮の機会となり、外部人材との協働が実現することで、人材育成面で機能することが把握できた。
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観光地に立地する中小飲食店のプロセス・イノベーションに関する事例研究
ビッグデータの活用を中心に―
小田島 春樹(三重大学大学院地域イノベーション学研究科)
論文要旨▼本研究は、ビッグデータを活用した来客数予測式を導入して、顧客管理の改善を図ることにより、観光地に立地する中小飲食店のプロセス・イノベーションを実現する事例に関する考察である。Porterに示される価値連鎖の枠組みを参照して、観光地に立地する中小飲食店の価値連鎖モデルを筆者が編集・作成した。価値連鎖における支援活動の一部分としての顧客管理にイノベーションを引き起こすきっかけとして焦点をあてた。事例では、POSレジに蓄積された顧客情報や天候や宿泊数などビッグデータを活用して、来客数に関して9割に近い精度で予測をすることにより、仕入のロスをなくし、労務人事管理を効率化し、従業員の待遇改善を実現した成果が得られた。
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高校生が推進する高校魅力化プロジェクトの実装と評価
広島県立油木高等学校におけるドローンスクールを通じた実証実験から-
貫洞聖彦(慶應義塾大学SFC研究所),稲垣円(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科),
玉村雅敏(慶應義塾大学 総合政策学部)
論文要旨▼地域資源を教育資源として活用し、特色ある教育活動の実現を目指す「高校魅力化」が注目されている。本研究では、高校生たちが自らの学習環境を地域で作ることによって高校魅力化を行うアプローチを検討し、広島県立油木高等学校にて実装と検証を行った。具体的には、本研究において設計した高校魅力化プロジェクトをもとに、実装活動を2年間実施した。また、その検証として、(1)実装活動の開始時、(2)実装活動の実施後(開始1年後)、(3)実装活動の1年後(開始2年後)の3回、活動量の持続性や心理的変化の観点から調査をした。その結果、地域での「課外活動の活動量」と参加者の「地域愛着」や「地域貢献意欲」に正の相関が示され、コミュニティに対する効果も示された。
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ポストコロナ時代における長崎県五島市畜産業のリレー型就農モデル研究
斉藤俊幸(地域再生マネージャー)
論文要旨▼コロナ禍を契機に食料の国内回帰が注目され、都市のコンパクト化の対岸にある農村集落撤退という地域政策も再考が求められる。畜産業振興は食料自給のみならず、耕作放棄地の放牧地化といった農地存続機能を有しており、ひいては集落政策に大きな影響を与える可能性がある。五島市久賀島は広大な農地があり畜産適地である。本研究では畜産農家の創業から10年間の子牛の生産数に着目し、畜産農家の成長モデルを想定するとともに地元30代農家と50代大都市人材によるリレー型就農モデルを検討した。畜産農家は生業として生きられるが雇用を生まない。リレー型就農は10年後に100頭の子牛生産体制に近づき4人程度の雇用創出が可能であり集落存続に寄与できる。
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地域からの新たな価値創造に関する一考察
~ 東日本大震災復興事業におけるマッチングプランナーの機能とは~
佐藤 暢(高知工科大学)
論文要旨▼本研究では、東日本大震災後に国が進めてきた震災復興事業において被災地に配置されたマッチングプランナーに焦点を当て、マッチングプランナーが果たした機能を社会科学的な観点から明らかにすることを試みた。現地インタビュー等を通じ、マッチングプランナーは「新たな価値を生み出す」「新たな繋がりを生み出す」「地域での絆を生み出す」機能を果たしてきたことが明らかとなった。また、組織間関係論に基づく理論考察からは、マッチングプランナーは「産」と「学」が互いに知る機会を創出し、互いが有する資源の有用性に気づかせ、新たな連携をもたらす機能を果たしてきたことが改めて浮き彫りにされた。
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旅行業界におけるユニバーサルツーリズムの一考察
鈴木一寛(フィールドウォッチャー)
論文要旨▼本研究では、観光庁の2018年度の調査結果により、旅行業界においてユニバーサルツーリズムが進んでいない現状を整理する。続いて、ユニバーサルツーリズムの市場拡大に向けた課題が、訪問先でのサポート体制の確保や専門知識の習得・人材育成といった人的要因であることを明らかにする。最後に課題の解決に向けた国や旅行業界の役割について考察をする。一方では、ユニバーサルツーリズムのインバウンド分野について情報が不足しており、今後の研究課題とした。
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宿泊産業における外国人雇用の実態とその効果、課題について
-山梨県との共同調査をもとに-
田中敦(山梨大学) Atsushi TANAKA (Yamanashi University)
郭玲玲 (JTB総合研究所) ReiRei KAKU(JTB Research & Consulting)
論文要旨▼訪日観光客の急増に伴い、宿泊産業における人材不足は喫緊の課題であるが、他産業に比べ給与水準や労働条件が悪く、採用や定着に苦労する状況が続いている。こうした中、国は2019年に新たな在留資格「特定技能」を創設する等、外国人の雇用を推進し課題の解決を目指している。一方、宿泊産業は他の産業と異なり、単に日本人従業員の量的な不足を補うだけでなく、外国人観光客へのサービス向上やマーケティング活動における貢献が期待される。本研究では山梨県内全施設を対象とした外国人雇用に対する調査をもとに実態を明らかにし、外国人雇用がもたらす付帯的なプラスの効果を認識する経営者が多く存在することを見出した。
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埼玉県西部地域におけるフードバンクの役割と機能に関する研究
萩野美鈴(早稲田大学人間科学部),岩垣穂大(日本女子大学),扇原 淳(早稲田大学人間科学学術院)
論文要旨▼フードバンクは地域に密着した活動であるため,地域ごとの特徴や課題によってそれぞれ役割や機能は異なる.本研究では,埼玉県西部地域を対象として,フードバンクの役割と機能について検討した.調査には,FBN 西埼玉のトレーサビリティシステムと食品提供依頼書のデータを用いた.集計の結果,67の寄付元から食品の寄付があり,72の団体と276人の利用者に食品が提供されていた.食品は 18 品目に及び,集められた12.4t のうち,11.2t が提供されていた.生活困窮者支援に関しては,相談支援機関の地域性や利用者の特徴が明らかになった.今後は,フードバンクが有する情報を他の相談支援機関と共有することで,生活困窮者により効果的な支援を実施することが期待される.
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購入型クラウドファンディングの役割に関する地域金融機関の認識と実施体制
保田 隆明(神戸大学)
論文要旨▼本研究では、購入型クラウドファンディング(CF)の地域金融における潜在的な役割と、それをきっかけとする地域活性化の可能性について検討するために、全国の地域金融機関に対してのアンケート調査を実施した。結果、購入型CFは、地域金融での融資前段階のリスク性資金および融資時のリスクシェアリングの機能を有していること、CF実施企業の経営スキルや力量の向上と地方創生に寄与すると地域金融機関が認識していることが分かった。ただし、一部地域金融機関は購入型CFを潜在的な競合とみなしており、それが購入型CFへの消極的関与につながっている可能性もある。今後にむけては、購入型CFを通じた地方創生事例の積み上げと共有が重要となる。
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逆参勤交代による都市人材の地方循環の研究
-リモートワークによる関係人口・地方創生-
松田智生(三菱総合研究所)
論文要旨▼近年ベンチャー企業だけでなく大企業にもリモートワークが普及しつつあり、自宅以外に地方でのリモートワークも注目されている。また関係人口という地域との関わりを求める層が地方創生で重視されている。本研究では都市の企業人材の地方循環、つまりリモートワークによる関係人口化と地方創生への関与を「逆参勤交代」と定義し、その目的に応じて5つのタイプを示した。また市町村での実証実験と企業の経営幹部へのアンケートから、上記のタイプへの期待と課題を明らかにした。逆参勤交代による都市人材の地方循環には多くの関心があるが、人事制度や費用対効果での課題があることが明確になった。実現には官民連携の制度設計が必要である。
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地域コミュニティと大学の連携による都市農村交流活動の相互作用:中山間地域を
対象として
論文要旨▼本研究の目的は、地域コミュニティと大学の連携による都市農村交流活動が中山間地域の集落に及ぼす影響を定性的に明らかにすることである。飯南町S集落と大学の連携による継続的な実践活動を通じて、集落に波及した要素について考察を行った結果、次の点が明らかになった。第一に、当初は、役場が大学生の移動などのサポートを行っていたが、大学生との交流の継続によって、徐々にインフォーマルな活動を含む住民の主体的な活動に変化していった。 第二に、集落から小学校区などの広域的地域に波及しており、集落と大学との連携を通じた集落間の面的な広がりの存在を確認することができた。関係人口が多面的に活動し、活動情報を共有することによって他の集落へ知識が伝播している。Iターン者や都市農村交流の関係人口に対する中山間地域住民の許容性や近隣の集落間での情報共有とその活用が、都市農村交流活動の広域的な波及を高める上で重要な役割を果たすと考えられる。
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