研究ノート
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有償ボランティアへのインセンティブ設計に関する考察
~ 三重県紀北町あいのり運送実証事業から ~
泉谷和昭(三重大学大学院 地域イノベーション研究科)
論文要旨▼
ボランティア人材は地域活性化を目的とする公共施策の実施に際して有力な担い手と期待できる。ところが、その確保や維持には課題も多い。本稿では、紀北町に於いて、過疎地域における新たな公共交通手段である「あいのり運送」の実施適合性を確認する目的で行われた実証事業に関連し、ボランティア・ドライバーへのアンケートとインタビューを実施し、その結果をもとに有償ボランティアに対するインセンティブプログラムの設計要点について考察する。より幅広くボランティア人材を求める観点から、複合インセンティブ設計の重要性を示し、ある種の「プロ意識」を抱く考えと「自発性」 を重視する考えとの関係に注目を与える。
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「若年層移住者」増加の要因と効果に関する一考察
ー東日本大震災後の宮城県気仙沼市唐桑町の事例からー
大友 和佳子(JA共済総合研究所)
論文要旨▼
本稿は、地方の「若年層移住者」増加の要因と効果について考察した。対象地域は宮城県気仙沼市唐桑地区である。要因は次の4 点である。第一に、東日本大震災をきっかけに受け入れ側と移住者の協働の関係が構築されたことがある。第二に、地域の自然環境や地域文化、漁村特有の共同体の在り方が移住者を惹きつけている。第三に、住民と移住者をつなぐ場・人(キーパーソン)や「開かれた自治」の存在が活躍を支えている。第四に、若年層のチァレンジを応援する環境、目指すべき移住者のモデル、中間支援組織による継続した若年層の地域への呼び込み等がある。効果は、「若年層移住者」によって地元住民が地域の誇りを発見し、まちづくりの状況が変化している点である。
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震災復興における「ビジネス・プラットフォーム」の形成
高力美由紀(新潟食料農業大学)
論文要旨▼
東日本大震災以降、被災地中小企業の多くは震災前の販路を失いその回復は容易ではなかった。ビジネスの復興には「新たな顧客基盤の構築」が必要であり、そこでは「エクイティ文化」に基づく被災地生産者・企業と消費地の企業、さらには消費者を結び付けるビジネス・プラットフォームの構築が有益であると考えられた。本研究では、このようなプラットフォームならびにコミュニティ形成を試みている事業者の事例研究を行った。結果、震災復興のためのビジネス・プラットフォームの形成には、「志」やWEB 上での様々な情報共有を行うバーチャルな繋がりを育むリアルなコミュニティとIT ネットワークシステムの構築という両輪が求められていることが示唆された。
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地域製造業の海外展開によるローカル・サプライチェーンへの影響
ー 山形県製造企業実態調査から ー
國分一典,野田博行,中島健介,小野浩幸,兒玉直樹(山形大学)、 田中陽一郎(東北大学)、 柊 紫乃(愛知工業大学)
論文要旨▼
本研究は、地域製造業のグローバル化に伴う地域経済に及ぼす影響に関するものである。山形県の製造業は戦後の工業再配置政策により電子・電気機械産業への集約化が進み、さらにグローバル化の影響を大きく受けた。この点に注目し、ある中核企業とその形成されたローカル・サプライチェーンの海外展開を取り上げた。先行研究に基づき「代替的」海外投資は国内生産の減少を招く一方、「補完的」海外投資はむしろ国内生産を活性化・高度化させる側面があることを期待したが、現実には単純な図式だけでは必ずしもなく、諸事情が複雑に影響することが明らかにされた。
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スポーツ交流型まちづくり〉に向けた施策展開のあり方に関する基礎研究
ー埼玉県戸田市の取組みを対象にー
高久 聡司、大西 律子
(目白大学社会学部)
論文要旨▼
スポーツを軸とするまちづくり、特に、2020 年東京オリンピックを前に「レガシー」に着目し、それを地域活性化や観光振興に繋ぐ動きが、今日、注目されている。しかし、今後を見据えた時に、「過去」の「レガシー」が地域にどのように 根付き、〈スポーツ交流型まちづくり〉へと連動するのか、との視点に立った検討は重要である。本論文では、スポーツツ ーリズムの枠組みを用い、1964 年東京オリンピックの「レガシー」(ボートコース)を有する埼玉県戸田市を対象に〈スポーツ交流型まちづくり〉へ向けての半世紀に亘る施策展開の整理と時代毎の特徴の抽出を試み、今後の当地での課題を、スポーツを見る人・支える人を養成する関連施策の立案にあることを導出した。
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防災に資する「記念碑等」の活用について-宮城県内市町村の事例から-
髙野 俊英(法政大学大学院)
論文要旨▼
本研究では、東日本大震災後における自治体の「記念碑等」の活用に関するアンケート調査等から、「記念碑等」に関する自治体の保存等の状況と、新たに保存が決定された「震災遺構」の維持・活用等の取り組について探った。また、その「震災遺構」についてはその決定された理由等を調査した。「記念碑等」の保存が住民の理解を得るためには地域の活性化にもつながる観光の「文化資源」としてその価値を高め、いかに活用するかが課題であった。イベントの事例では災害の記憶の伝承や地域と参加者との交流の場として活用されていたが、震災復興のため応援に資する多様なイベントとの連携による活用は、地域のにぎわいを取り戻す契機となり、被災地への震災復興の支援が「地域の活性化」とつながっていることが本研究から見えてきた。
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小田原市の柑橘樹園地を対象とした農地価格の検証
都丸孝之
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
論文要旨▼
神奈川県小田原市では農家の高齢化にともない、樹園地の耕作放棄地が年々増加している。耕作放棄地の増加は、農業生産量の減少のみならず、雑草や害虫の発生、鳥獣被害の増加といった様々な悪影響を及ぼす。そのため、耕作放棄地になる前に新規就農者に農地を受け渡していく必要があるが、農地の売買は年間数件程度にとどまっている。その理由の1つとして、樹園地の農地価格が適正に算出されておらず、新規就農者が安心して農地を購入できないことが挙げられる。そこで本研究は、小田原市の樹園地を対象に、DCF 法を用いて農地価格を算定した。特に小田原の主要柑橘であるみかんとレモンの農地価格と実勢価格の比較、さらに、耕作放棄地の農地価格と収穫可能な既存の農地価格の比較に着目して検証を行った。その結果、みかんの耕作放棄地の農地価格は、収穫可能な既存のみかん農地価格と比較して、1/10 であることが判明した。さらに、収穫可能な既存のレモンの農地価格は、収穫可能な既存のみかんの農地価格の3.6 倍になることが判明した。
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NPO が関わる文脈で「地域活性」はどのように捉えられるか
~関連研究誌と NPO の定款のテキスト分析から~
中尾 公一(兵庫県立大学)
論文要旨▼
NPO が地域活性に果たす役割は、政府や研究者によって広く認められつつある。しかし、研究上捉えられてきたNPO の役割とNPO 自身が捉える「地域活性」の差異や、NPO が捉える「地域活性」の経時変化やNPO 所在地の差異までは分析されていない。本論文では「地域活性研究」等の学会誌二誌138 本の論文の550 余の文章表現や、2,700 余の「地域活性」等を含むNPO 法人の定款に含まれる語句を分析・比較した。論文とNPO 定款の頻出語の間には視点の違いが見られた。またNPO 法人の定款の頻出語は、1998 年から2019 年にかけて、教育・文化活動推進から高齢化対応、情報発信、観光へと経時変化し、大都市圏と非大都市圏の間では、人々、場、情報の捉え方に差異が見られたことを明らかにした。
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精密板金会社における金属3D プリンタ事業化を通じた新規事業の成功要因に関する分析
藤尾宗太郎(信州大学)
論文要旨▼
本研究では、筆者自身が地方企業の新規事業立ち上げを成功させた経験を基に、エスノグラフィを用いて成功要因を分析した。筆者は産学官連携地域活性化プロジェクト「信州100 年企業創出プログラム」へ参加し、精密板金業タカノにおける金属3D プリンタ事業化へ取り組んだ。その中で筆者が実際に行った活動及び産学官連携コンソーシアムがもたらした効果を検証した。その結果、成功要因は「1.適切な要素の組み合わせ」「2.組み合わせを十分な速度で成長させる仕組み」「3.明確な達成指標の設定」「4.当事者意識」「5.ネットワーク形成」であることを明らかにした。
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地域酒造の戦略的価値の特徴に関する考察―島根県の清酒製造を対象として―
永野 萌1・保永 展利2 *
1 島根大学自然科学研究科
2 島根大学
論文要旨▼
本研究の目的は、地域活性化の担い手である地域の清酒製造業者(以下「地域酒造」)が経営戦略において重要と考えている要素がどのように異なるのか、またその地域酒造間の差異に関連している要因を明らかにすることである。島根県酒造組合に所属する酒造会社を対象としてアンケート調査および聞き取り調査を行い、その結果から AHP(Analytic Hierarchy Process)を用いて、地域酒造の経営戦略における各要素の重要度(戦略的価値ウェイト)を算出した。また、算出した戦略的価値ウェイトを用いてクラスター分析を行い、聞き取り調査結果をもとに地域酒造の類型別の特徴について考察を行った。その結果、(1)地域酒造の経営戦略の傾向は3 つのグループ「バランス重視群」「販売重視群」「製造・販路重視群」に類型化できることが明らかとなった。(2)戦略的価値ウェイトの差異の要因として、「市場規模」「生産量」「販路」「歴史・創業年」などが関係していることが明らかになった。地域の市場規模が小さい地域にある酒造では、地元や県内での消費を求めるより、さらに人口の多い地域や県外へと販売先を求める傾向にある。これらの結果は、類似傾向をみせた個々の地域酒造を取り巻く立地条件や歴史的背景に基づき、マーケット戦略における類型化を行うことができる可能性を示唆している。
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地方都市の公共劇場におけるアート機能とコミュニティ機能の両立の要件
-三重県津市の劇場群の分析-
山口真由
論文要旨▼
本論は、公共劇場の社会的機能としてアート機能とコミュニティ機能を提示し、地方都市の公共劇場が、2 機能を両立するための要因を分析したものである。三重県津市に所在する劇場群を調査対象とし、事業責任者2名に対するインタビューの結果をもとに、SCAT を利用した探索的な分析を行った。その結果、4 つの要因を抽出した。①人的・組織的なネットワークの構築、②主導的人物の存在、③劇場インフラの先行、④文化政策・演劇界の転換期というタイミング、の4 要因である。さらに①人的・組織的なネットワークの構築に関しては、事業の継続性に基づく多重的・多層的なネットワークの同時 的な構築が、重要な役割を果たしていた。
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竹富島の移住者価値とネットワークが果たす役割
大和里美(奈良県立大学)
論文要旨▼
本研究では、沖縄県の竹富島で現地調査を行い、S-D ロジックの視点から、移住者にとっての価値と価値が生まれる文脈、及び価値共創において移住者間のネットワークが果たす役割について分析し、定住に繋がる地域の価値創造について考察した。その結果、3つの主要な価値と価値を生み出す文脈が示されたが、何れの価値を高く評価するかについては、ライフステージによる違いや性差が見られた。また移住者と島民の間だけでなく、移住者間のネットワーク内で地域価値が共創されていた。島の事情に通じた定住者の存在が移住者の価値共創に寄与しており、特に住民との交流が少ない移住者の価値共創において大きな役割を果たしていた。
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地域における歴史文化団体の組織と運営―高知県の実践活動の分析―
楠瀬慶太(高知工科大学)
論文要旨▼
本研究は、過疎高齢化で消失の危機にある歴史文化を地域資源ととらえ、記録、保存、活用などの活動を行っている歴史文化団体の組織や運営の形態、課題を実践事例から分析するものである。各団体の活動は、地道な記録活動を基盤にし、地域資源としての歴史文化を地域社会に普及していくものであった。初期段階では、専門性を持つ研究者が重要な役割を果たし、年数を経た団体ほど成熟した組織形態を有しており、より個人に依存しない体制づくりが構築されていることが分かってきた。地域での活動を長く継続させていくためには、組織の成熟や発展段階を意識した運営が必要であり、マンネリ化を打破していくための企画やアイデアも求められる。
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住民の潜在的可能性に基づく地域づくりに関する予備的研究
―ミャンマのー開発僧による地域開発の事例を手がかりにー
松原明美(同志社大学大学院 総合政策科学研究科 博士後期課程)
論文要旨▼
本研究の目的は、ミャンマーの開発僧が実践する「心の開発」を重視した地域開発のプロセスを可視化することを通して、住民の潜在的可能性に基づく日本に応用可能な地域づくりモデルを考案するための予備的知見を得ることにある。具体的には、開発僧や村人を対象としたインタビュー調査を行い、M-GTA によって地域開発のプロセスを明らかにした。その結果、ミャンマーの開発僧は個人の抱える課題に着目し、物心両面から地域開発に取り組んでいることが分かった。開発僧は、瞑想と説法を通じた心の開発を基軸に地域開発に取り組んでいた。慈悲を持って村人と関わる開発僧の姿勢は村人に波及し、地域全体に利他の精神が育まれていく様子が確認された。この慈悲や利他の精神が地域開発の基盤にあることにより、地域の発展に重要な社会関係資本が醸成されていたと推察される。
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