事例研究報告 |
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商店街組織によるコミュニティ・カフェのマネジメント
菅原 浩信(北海学園大学)
論文要旨▼
本稿の目的は、(1)商店街組織はどのようなコミュニティ・カフェのマネジメントを展開しているのかについて分析 するとともに、(2)今後、どうすれば適切なマネジメントが展開されるのかについて考察することである。事例として取り上 げた6 つの商店街組織では、地域コミュニティの活性化に向け、様々なコミュニティ・カフェのマネジメントが展開されて いるものの、それらは必ずしも適切なものであるとはいえないことが明らかとなった。今後、商店街組織が適切なコミュニ ティ・カフェのマネジメントを展開していくためには、(1)交流やふれあいの地域コミュニティへの波及、(2)地域住民等の コミュニティ・カフェへの参画、(3)商店街全体への効果の波及、(4)支援のあり方の見直しの働きかけの4 点を考慮する必 要があることも明らかとなった。
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エコミュージアムによる地域概念の形成に関する研究
井上和久(早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科)、友成真一(早稲田大学理工学術院)
論文要旨▼
1971 年にエコミュージアムは、ジョルジュ・アンリ・リヴィエールにより概念が提案された。以降、エコミュージア ムは世界的な広がりを見せ、我が国においては、1990 年代以降、朝日町エコミュージアムを初めとした多様なエコミュ ージアムが設置された。本稿では、エコミュージアムの現状を分析すると共にエコミュージアムにおける公共・共生を 軸とした地域形成概念の変化について検討を行った。エコミュージアムは動的に資源を活用しながら保存・展示を行う ことから、その活動において、住民参加を基軸としている。本研究では、地域概念の形成におけるフレームワークを明 らかにした。
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大都市の公的支援機関における創業支援現場の一考察 -創業者と支援者の実践コミュニティ形成プロセス-
柴田 仁夫(埼玉大学経済学部非常勤講師)・井手美由樹(井手コンサルティングオフィス)
論文要旨▼
本稿では,パートナーシップ構築ノウハウを有した支援者が少ないという大都市部の公的支援機関が抱える課題に対し, 支援者がどのようにパートナーシップを構築しているのか,実際の支援者の事例からこれを明らかにした。支援者は創業 者等と「課題の見極め」「タイムリーな支援策情報の提供」「定期的なコンタクト」を通じてパートナーシップの構築を図 っているが,これらは「共同の企画」「共有領域」「相互関係」という実践コミュニティの構成要素であると考えられる。 つまり相談窓口は支援者と創業者等の実践コミュニティであり,創業者等と支援者のパートナーシップが強連結になれば 創業者等は実践コミュニティに十全的参加となり,弱連結であれば正統的周辺参加となる。
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NPO 法人「ミラツク」の超域型場づくりフレームワークによる地域活性化の特徴分析 ―場づくりの比較分析や共同行為における自己実現の段階モデル分析を通じて―
坂倉杏介*1、西村勇哉*2、真木まどか*2、早田吉伸*1、前野隆司*1、保井俊之*1
(*1:慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科、*2:NPO 法人ミラツク)
論文要旨▼
本研究は、2000 年代に入り顕著となった地域活性化の場のとらえ方の変化を背景に出現した、従来の領域概念を超え た地域活性化団体を、「超域型場づくり」地域活性化団体モデルとして特定し、同団体の有する地域を活性化するシステムの 機能とふるまいを構造化した。そして、これまでの地域活性化団体の場づくりとの比較分析により、同団体が地域の社会イ ノベータの自己実現と成長の促進を通じて、地域活性化に寄与することを可視化した。さらに「共同行為における自己実現 の段階モデル」を用い、地域活性化団体と場への参加者がともに自己成長を遂げ、地域活性化を加速する効果があることを 示した。
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京築地域における経済指標を用いた地域特性の分析と今後の展開
宇佐圭司(西日本工業大学)・皆川重男(西日本工業大学)
論文要旨▼
福岡県東部に位置する京築地域は、2016 年を目標に整備が進められている東九州自動車道により、今後の地域基盤の変化 が予想されている地域である。この研究では、京築地域の特性を把握し、自動車道整備に伴う活性化策を講じることを目的 としている。そのため、都市に関する指標を用いて、福岡県・大分県の78 市町村の類型化を行い、この地域が4 つのクラス ターから構成されていることを明らかにした。また、今後の活性化策として、自動車産業の集積地としての機能を発揮する ための環境整備が必要であることと、交流人口を確保するための地域ブランドの構築、地域資源の開発などの必要性を提示 した。
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情報メディアが作る地域活性化の課題 ~群馬県富岡周辺を事例に~
田畑 恒平(江戸川大学 メディアコミュニケーション学部)
論文要旨▼
2014 年群馬県富岡市にある日本の殖産興業の代名詞とも言える「富岡製糸場と絹産業遺産群」が、ユネスコの世界遺産 に正式に登録された。この情報は瞬く間にメディアに載り人々に知れ渡ることになったのである。その結果、富岡製糸場に は予想をはるかに超える観光客が押し寄せ、富岡市の中心地区は空前の観光ブームに沸いている。こうした中で、その土地 に代々暮らし、未だに絹産業に従事しながら生活している人々もいる。また、これを機に転換を図り観光を中心とした産業 へと転換する人々も存在している。念願の世界遺産登録が地域活性化に果たす役割として大きな果実を得た反面、そこに暮 らす人々の生活や産業への影響、また劇薬ともいうべきメディアによる地域活性化の功罪について検討する。
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富山県におけるジェネリック医薬品の普及要因に関する研究 -地域活性化への取り組み-
近藤 博子(法政大学大学院 政策創造研究科 博士後期課程)
論文要旨▼
今日、日本の高齢化社会において医療費が増大している。厚生労働省の医療費の抑制政策の一つに、ジェネ リック医薬品の普及があるが、思うように進んでいない。富山県は、ジェネリック医薬品の使用割合が全国平 均を上回っている。富山県には多くの医薬品製造企業が立地しており、ジェネリック医薬品を製造・供給して いる企業も多い。主要産業が医薬品産業である富山県にとって、ジェネリック医薬品の普及は地域活性化に結 びついている。富山県はどのような取り組みで成功を収めたのだろうか。ジェネリック医薬品の普及要因とし て「安全性・品質の確保・安定供給・情報提供・医師や薬剤師における信頼度の向上」が重要であることが判 明した。
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地域観光とアニメ舞台めぐりが両立するアニメツーリズム推進モデルの研究 ―富山県南砺市の恋旅公式ツアー「南砺に恋する女子旅」を事例として―
花房真理子(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)
論文要旨▼
アニメツーリズムは魅力的なコンテンツによって集客交流産業を振興させる機能をもつ。本研究では地域観光とアニメ舞 台めぐりの両機能が備わるアニメツーリズム推進モデルを提案する。モデルに基づき企画した『恋旅』の舞台をめぐるバス ツアーの参加者へ質問調査を行い、地域資源の提供と作品を強調しないクチコミが作品に関心の低い旅行者を惹きつけるこ とを明らかにした。また作品に関心の低い旅行者も地域固有の物語を描く作品の視聴によってアニメツーリズム的行動を起 こすことを示した。以上の結果から、筆者らは作品への関心が低い旅行者を誘致することで、アニメツーリズムの持続的発 展を可能にするアニメツーリズム推進モデルを構築した。
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総合型地域スポーツクラブの自立的運営に関する―考察
―二重県内総合型地域スポーツクラブを着日して―
黒川 祐光(岐阜経済大学大学院)
論文要旨▼
総合型地域スポーツクラブは、スポーッで地域を元気にする重要な役割 (新 しい公共)の担い手として期待されてい るが、運営面においても主財源に乏しく、各種助成金や指定管理者制度に頼つているケースが多い。クラブアンケー ト 調査を行った結果、運営が行き詰まっているクラブと新たな方向を見出したクラブの二極化傾向にあることがわかつた。 コミュニティ形成・促進を目的とした行政施策として誕生 した総合型地域スポーツクラブであるが、行政とクラブ (地 域住民)の協働関係を構築 し、住民主導へ方向転換していくことが、総合型クラブの自立的運営を促進するものである。
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大学教育における地域活性化をテーマにした協働学習
グループウェアを介した相互作用が学習成果に与える影響
松橋崇史 飯沼瑞穂 中村太戯留 千代倉弘明 (以上、東京工科大学)
論文要旨▼
工学系の学部生を対象にした2 年次の必修授業において、地域活性化をテーマにした協働学習を実施した。協働学習を促 すためにグループウェアを導入し、学生間の相互作用の促進を図った。本論では、まず、地域活性化をテーマにした協働学 習を大学の授業で行う際の課題と、グループウェアを導入した狙いとその仕組みの説明を行う。次に、履修者全員を対象に した事前事後のアンケート調査の結果に基づき、それがまちづくり学習に与える影響を把握する。調査結果から、グループ ウェアによって個人課題やグループ課題の相互参照を促すことが、まちづくりへの関心を喚起することが示唆された。
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ヒト・モノ・カネ・コト蓄積型の持続可能な地域再生―海士町を事例として―
中島 恵理(上智大学)
論文要旨▼
我が国の持続可能な地域再生の取組を分析するため、持続可能な発展に関する国際的な原則、定義及び経営資源・地域経 済分析のレビューを踏まえ、地域の「ヒト」「モノ」「カネ」「コト」を地域資産と定義し、地域資産を発掘し、活用、循環、 蓄積し、それぞれを連結する地域資産の蓄積性を地域再生分析のフレームワークとして整理した。これを用いて、島根県海 士町の地域再生を分析したところ、行政と地域の「ヒト」からねん出された地域の「カネ」が出発点となり、島内外の「ヒ ト」と「ヒト」の連結による地域の「モノ」及び「コト」を生かした取組が、地域外の「カネ」を流入させ持続可能な地域 再生が行われていることが明らかになった。
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「公益」をキーコンセプトとした地域づくり
―東北公益文科大学による研究と山形県庄内地域の自治体による実践―
小野 英一(東北公益文科大学大学院)
論文要旨▼
山形県庄内地域では、東北公益文科大学による「公益学」研究と、地元自治体である酒田市および山形県庄内総合支庁に よる「公益のまちづくり」および「公益のふるさとづくり」の実践により、「公益」をキーコンセプトとした地域づくりが進 められている。研究と実践を両輪とし、「公益」という独自性を出した地域づくりである。本稿では、この地域づくりについ て事例研究報告を行う。はじめに東北公益文科大学による「公益学」研究と地元自治体による実践について整理する。そし て、東北公益文科大学による「公益学」研究と地元自治体による実践の結び付きの具体事例として「酒田市公益のまちづく り条例」の制定の事例を取り上げ事例研究する。
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地域資源からコンセプトを創出するNPO 砂浜美術館によるサステナビリティーと価値提供
福良冴香、桂信太郎、井形元彦(高知工科大学)、村上健太郎(砂浜美術館理事長)
論文要旨▼
地域活性化は、近年、国家的にも重視されている課題であり、地域にある資源を最大限に生かしながら地域の活力を 生む取り組みが求められている。これまでの地域活性関連研究は、社会学、農業経済学、経済政策、経営学、スポーツ科学、 農業土木学など幅広い学問分野にまたがってなされてきたが、方法論はもとより用語の意味や定義も明確になっていない。 本稿では、我々が近年取り組んでいる地域との連携活動の中から、高知県黒潮町で展開されているNPO 砂浜美術館の観光系 プロジェクトについて、帰納法的アプローチによる定性分析(インタビュー、直接観察、インターンシップを含めた継続的 参加観察)の手法による調査研究について事例を報告する。
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大学の技術シーズ実用化による地域活性化 ―弘前大学のプロテオグリカンを事例として―
野澤一博(文部科学省 科学技術・学術政策研究所)
論文要旨▼
現在日本各地において、地域経済活性化のために地域にある大学の技術シーズをもとにイノベーションの創出が図られて いる。本稿では、弘前大学を事例に大学発の技術シーズの実用化プロセスを分析した。弘前大学は県内企業と組んで国の研 究開発助成を継続的に活用しながら研究開発を進め、機能性食品や化粧品の開発に結びつけた。その開発マネジメントには 青森県も大きく寄与していた。しかし、イノベーションの価値連鎖の段階を見ると、鍵となる段階ではノウハウや販売力の ある県外企業が大きな貢献を果たしていた。今後、イノベーションを地域活性化に結びつけるためには、県内における価値 連鎖の発展と県内企業の存在感を高めることが求められる。
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小規模自治体における、医療提供体制構築の成立要因 -北海道寿都町を事例に-
稲垣 円(慶應義塾大学)、金子 郁容(慶應義塾大学)
論文要旨▼
本論の目的は、北海道の小規模自治体において、行政組織が民間医療法人の持つ医師派遣のしくみや法人に所属する医師 が専門とする「家庭医療」を実践することで、持続的な医療サービスの提供に一定程度成功している事例として、北海道寿 都(すっつ)町を取り上げ、そのプロセスから、小規模自治体における医療提供体制の成立要因について考察することであ る。調査結果から、首長と議員が問題の解決に向け課題設定を共有していたことが、医師の派遣元である医師派遣の民間医 療法人との協働を実現した要因であることが判明した。また、寿都町は従来の医師を個人単位で派遣するしくみに頼るので はなく、民間医療法人の持つ医師派遣のしくみを活用する一方、派遣された医療従事者(医師、看護師、薬剤師、診療放射 線技師)は、診療所内での治療行為のみならず、自治体の多様な主体(行政組織、地域組織、住民等)への働きかけや主体 間の調整などの役割を果たしていた。また、医療従事者の働きかけに沿った行政や地域組織、住民の協力も重要であること がわかった。
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大学との連携による地域振興 ―福島県会津若松市の事例―
梅村 一晃(稲沢市役所)
論文要旨▼
日本の数多くの地方自治体は、産学官連携に積極的であるが、成功事例は極めて少ない。会津若松市は、数少ない成功事 例である。会津若松市の成功の要因は会津大学である。会津大学が主導し、市役所と商工会議所は、支援に徹している。会 津大学は、日本で唯一のコンピュータ専門大学である。会津大学は、開学当初からベンチャー企業の育成に積極的であり、 数多くの大学発ベンチャー企業を輩出しており、会津若松市の地域振興に大きく貢献している。
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官学協働による「まちづくり学習プログラム」の設計・運用に関する基礎研究 ―埼玉県戸田市におけるまちづくり活動への接続を視野に入れた学習プログラムの展開を中心に―
大西律子(目白大学)、富澤浩樹(岩手県立大学)、津々見崇(東京工業大学)
論文要旨▼
近年、山積する地域課題に果敢にアプローチし、その解決に向けて主体的に考え、行動していく人材を養成する「まちづ くり学習」の動きは各所で盛んになっている。しかし、学習と実際のまちづくり活動との「接続」には多くの課題もあり、 研究知見もほとんど蓄積されていない。本研究では、学習と活動の接続の観点から、1)著者らが埼玉県戸田市と協働で設 計・運用した「まちづくり学習プログラム」を対象に、実際の設計から運用までの工程と内容を体系的に明らかにし、2) 実証実験によって得られた定量・定性データに基づいてその評価及び課題を検討することを目的としている。最終的には、 当該プログラムが一定の運用条件下において、まちづくり活動との有機的接続に有用であることが明らかとなっている。
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