事例研究報告 |
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自治体における「顧客志向」の行政サービス改革
―山形県庄内総合支庁における「おもてなし」推進の取組みを事例として―
小野英一(東北公益文科大学大学院)
論文要旨▼
山形県庄内総合支庁では、県民満足度を高めることと職員が働きやすい職場環境を創ることを目指し、これまで「おもて なし」推進のための様々な取組みを行ってきている。具体的には、2013 年度の「おもてなし推進課」の立ち上げから始まり、 「おもてなしアイデア職員提案」の募集、「ベストおもてなし課」総選挙などの「ベストアイデア賞」の決定とその実施、「お もてなし推進員」の任命などに継続して取り組んできている。本稿では、自治体における「顧客志向」の行政サービス改革 について、山形県庄内総合支庁において展開されてきた「おもてなし」推進の取組みを事例として取り上げ、事例研究報告 する。
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地域活動や挨拶と地域への愛着に関する考察~中学生の意識調査を事例として~
亀山清美(佐賀大学大学院)
論文要旨▼
地方の人口減少・少子高齢化が進展しているなかで、子どもを地域社会で育てようとする動きがある。地域の大人が子ど もにまなざしを向け、地域の祭りや行事のなかで子どもを育てようとしている行為が、子どもの心にどのように伝わり、地 域愛着を醸成しているかを解明することが、本論文の目的である。そのために、中学生の地域活動と地域への愛着に関する アンケート調査を実施した。アンケートの分析結果から、中学生の地域活動参加は地域への愛着と関わりがあるということ がわかった。また、地域活動のほかに、地域の人々とかわす挨拶も地域への愛着と関わりがあることがわかった。
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自治体立病院に於ける利用者拡大にむけての方策―患者対応と医療観光の試み―
宋 潔(小樽商科大学大学院商学研究科博士後期課程)、伊藤 一(小樽商科大学)
論文要旨▼
本研究は自治体立病院である小樽市立病院を対象に、病院で利用者拡大のために行われている「外来患者満 足度調査」と「メディカルツーリズム(MT と略称する)の導入」といった2 つの試みに焦点を当て調査成果を 考察した。結果、外来患者満足度調査において、医師・看護師への信頼感が患者満足度に強く影響している点 が明らかになった。また、病院の施設・設備や清潔度が患者満足度に強く影響することも判明した。特に、新 旧施設の経営業績や利用者数の比較では、病院の施設・設備が患者満足度の向上や利益の上昇、利用者拡大に おいて重要な要因である点を解明した。最後に、医療機器の稼働率を高めるためのMT(健診)導入を検討し、 導入のための事業モデル及び課題等を提示した。
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住民参加まちづくりにおける主体形成10 ステップモデルの提案
- studio-L が支援するプロジェクトの分析を通じて -
醍醐孝典*1、保井俊之*2、坂倉杏介*3、前野隆司*1*2
*1東北芸術工科大学、*2慶應義塾大学大学院SDM研究科、*3東京都市大学
論文要旨▼
本研究では、20 の住民参加まちづくりプロジェクトを事例とし、合意形成を実現できるのみならず、プロジェクトを通じ て参加住民が主体的に公共的な活動を展開する主体形成を実現できる支援手法のモデル化を行った。すなわち、従来の合意 形成へ至る3 プロセスに加え、新たに7 つのプロセスを加えた10 のプロセスから成るモデルを構築した。また、それらの 各支援プロセスの重点化の度合いを分析することによって、主体形成を目指した住民参加まちづくりにおいては、まちづく りの類型によって、支援において重視すべきポイントの違いも見られることを明らかにした。
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コンテンツを媒体とした地域リレーショナルシップ形成要因に関する考察
-岩手県久慈市を事例としてー
中村 忠司(一橋大学大学院)
論文要旨▼
テレビに代表される映像メディア誘発型の観光は、放送年に多くの観光客が舞台となった地域を訪れるが、放送終了後は 一気に観光客数が減少する場合が多い。2013 年に放送された『あまちゃん』の舞台となった久慈市では、放送終了後もコア なファンが持続的に同地を訪れ、積極的に地元の方と交流する現象が見られる。その理由を調査すると、SNS で知り合った 者通しでオフ会を構成し、地元の方や他地域のオフ会とネットワークを作るというネット時代の新たな地域リレーションシ ップの形が検証された。
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自治体-大学連携による地域活性化;地域の課題解決事業
西川洋行(県立広島大学)
論文要旨▼
地方創生の推進において、地域の自治体はその主役となる存在である。大学の社会貢献活動とそうした自治体の動き が結びついた結果、地域の課題解決事業として取り組みがなされてきた。自治体等が抱える地域課題を大学との連携によっ て解決を図ることを目的とした協働事業の意義や有効性を明らかにするとともに、失敗要因を抽出して運用改善の要点を明 確にした。さらに、課題提案段階での成果活用に向けた検討が極めて重要であることや、学術的専門性がそれほど重視され ないといった地域課題解決型事業の特異な性質を明らかにするとともに、事業成果が自治体等で活用され、地域活性化や地 方創生に貢献する事業を創出するために効果的な手法・方法を明確にした。
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協働による広域行政の成功要因 ―大阪湾フェニックス事業の分析
樋口 浩一(関西大学ガバナンス研究科)
論文要旨▼
大阪湾フェニックス事業は1982 年に広域臨海環境整備センター法を根拠に開始された近畿2 府4 県168 市と在 大阪湾4 港湾管理者による廃棄物埋立処分と土地造成を目的とした広域の共同事業である。多数の関係者の利害が輻 輳する事業であるが、これまで30 年余に亘り成功裡に運営がなされている。この間に幾つかの危機もあったが、関係 者の理解と協力の下で、当初の基本スキームを大幅に見直すことも含めて解決を図り、事業継続を確保してきた。そ こには言わばコモンズに類似した各団体間相互の規範的な関係が想定され、関係者間の共同事業の成立・維持のため の相互の互恵・協力関係が醸成されている。
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地方老舗菓子店の競争戦略‐つるおか菓子処木村屋を事例として‐
藤科智海・新妻綾乃*・小沢亙(山形大学・*株式会社デイリー・インフォメーション)
論文要旨▼
山形県鶴岡市には、1887 年に創業し、庄内地域に計18 店舗を展開する老舗菓子店「つるおか菓子処木村屋」がある。地 方老舗菓子店の存在は、地域の雇用を創出するとともに、地域の魅力を効果的に発信するという意味で、地域経済の活性化 に影響を与えている。本研究では、木村屋の競争戦略を戦略ストーリーの概念を利用して解明する。木村屋社長、18 店舗店 長に対する聞き取り調査の結果、木村屋は、「地域を代表する菓子店」というコンセプトのもと、地域企業、まちの菓子店、 地域のお土産屋という3 つの役割を持っていることが明らかになった。独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素(ク リティカル・コア)は、自社生産主義と多店舗展開である。
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我が国の地方へのインバウンド誘致に関する研究-長野県野沢温泉村の事例から-
桃井 謙祐(信州大学)
論文要旨▼
我が国において、地方へのインバウンド誘致が課題となる中、近年外国人を集める日本のウィンターリゾート地に着 目し、野沢温泉村を事例に外国人観光客への調査を実施し、他の既存人気地域の存在にもかかわらず、外国人観光客が来訪 するメカニズムについて検討した。その結果、(1)単にスキー場や雪質のような機能的価値のみに囚われず、地元の文化や街 並み、地元の人のホスピタリティなどによるその地域ならではの経験価値の創造・訴求、(2)周辺地域との連携による情報発 信、(3)他方で周辺地域との連携による周遊ルートの開発のみに囚われず、自らを滞在拠点に大都市や人気観光地と併せて訪 れてもらう戦略、も重要であることを示した。
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中山間地域の自治活動における広域連携活動の意義と可能性
-島根県旧赤来町の地域自治組織の差異に着目して-
竹村 佑子*1 ・保永 展利*2
*1 島根大学生物資源科学研究科地域活性化人材育成特別コース
*2 島根大学
論文要旨▼
本研究の目的は、近年、集落を超えて形成されている地域自治組織の意義とその可能性を考察することである。島根 県旧赤来町において複数の集落からなる地域自治組織を対象とした実態調査をもとに広域連携活動と既存の集落活動と の関連から考察を行った。その結果、次の点が明らかになった。(1)集落間で行う広域連携活動の項目数は2~9項目と ばらつきがあり、広域連携活動の進展度合いに違いが見られる。(2)このような広域連携の活動性の違いには、組織内に おける集落の農業条件や集落での共同性、高齢化の進展度合い、組織運営における財政的問題などが関係している。(3) 直面する課題は地域自治組織ごとに異なる。一方、地域自治組織の役員の人口構成には偏りがあり、補助金額は少なく依 存度は高い。これらの結果は、地域自治組織の活動を展開していく上では、組織活動を担う人材(雇用労働の確保)とそ のための財政的支援、町内の地域自治組織が相互に情報交流を行える場や自治組織内の集落・住民間で情報共有する場づ くりなどの他、個々の組織の条件に合わせた支援が重要であることを示唆している。
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有機・無農薬柑橘産地の展開過程―愛媛県無茶々園の事例―
山藤 篤(愛媛大学)
論文要旨▼
無茶々園は、1974 年に愛媛県明浜町(現西予市)に設立された無農薬・無化学肥料による柑橘栽培を目指す農家グルー プである。同グループは柑橘生産を行う農事組合法人と販売組織である株式会社を併せて設立することで、独自の生 産・流通システムを構築してきた点に際だった特徴をもっている。 同グループの活動は、既に40 年以上に亘っており、かかる柑橘生産の持続的な発展に一応の成果をあげていると考えら れる。本稿は、こうした無茶々園の活動の経過を整理することでその特徴を明らかにし、今後の有機・無農薬柑橘産地 の展開について考察していく。
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