事例研究報告 |
● | 道の駅による地域活性効果の規定要因に関する定量分析
赤沢克洋(島根大学)、古安理英子(島根大学)
論文要旨▼
本研究の目的は道の駅による地域活性効果の規定要因を定量的に明らかにすることである。そのために、潜在クラス
分析を用いて道の駅を類型化した上で、パス解析を用いて地域活性効果の規定要因に関する構造モデルを推定した。
その結果、道の駅は4つの類型に分類され、さらに、販売活性効果では地域住民との協力関係、特産品の販売および豊富
な交通量、 雇用促進効果では地域住民との協力関係と食事関連の経営戦略、観光誘客効果では行政との協力関係、観光
地経由地として の立地、地域魅力の情報提供、接客サービスおよびイベント開催、拠点活性効果では地域住民との協力
関係、有名な農産物 の存在および住民施設や展示施設の充実が主要な規定要因であることが示された。
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● | 既存関係構造の利用から見出される 6 次産業化 ~株式会社みやじ豚のブランド構築の事例を通じて
石黒督朗(東京経済大学経営学部)
論文要旨▼
本研究の目的は、農畜作業における 6次産業化について、近年の企業家研究の知見に基づいた分析を行うことで、6次
産業化を通じた地域活性化の新たな発見を見出すことにある。農業経営者を不利な状況に陥らせる既存関係構造からの
脱却として議論されてきた 6次産業化だが、経営資源に乏しい多くの農業経営者にとってその実現は困難である。そこ
で株式会社みやじ 豚の分析を通じて本研究では、既存関係構造を利用することで、構造的不利な農業経営者が既存関係
構造の中にリスクを負担 させつつ、 6次産業化の実現に向けた新たな利害関係を構築する企業家活動を、新たな
6次産業化の実践手法として分析する。
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● | 福祉事業所による農業参入を通じた農福連携の意義と課題―就労継続支援(B型)2事例の比較より
小川 真如(早稲田大学大学院)
論文要旨▼
本研究は、福祉事業所による農業参入を通じた農福連携の意義と課題を、就労継続支援(B型)2事例の比較より明らか
にした。これまで、就労継続支援(B型)については、就労継続支援の利用者の多数を占め、利用者の障害の程度が多様
である ことが指摘されつつも、具体的な実態について、言及や分析はされていなかった。本研究の結果、障害の程度の
分布を踏ま えた独自の経営判断や、経営上の農業参入の意義や農地集積行動に差異があることが明らかとなった。
“福祉”と“労働”の あり方について制度的な整備がなされていない現状において、比較的の労働能力が高い障害者の
評価や作業分担については、 現場によって対応・模索されている現状が明らかとなった。
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● | 地方国立大学と地域金融機関の連携による地域経済活性化システム ~「山形大学方式」と「米沢信用金庫モデル」~
加藤博良*1,2,武田哲*2,小野浩幸*1 (*1山形大学大学院理工学研究科 *2米沢信用金庫)
論文要旨▼
本研究は、地域経済の活性化とそれに密接に関係する地域金融機関の金融モデルの変化に関するものである。地域金融
機関が地方創生の担い手として期待される経緯を踏まえつつ、本研究では、山形大学が独自に行っている金融機関との
連携による中小企業支援・地域活性化の「山形大学方式」と、その山形大学方式に独自の取組みを加えた米沢信用金庫
による 「米沢信用金庫モデル」を取り上げた。本稿の分析により、米沢信用金庫モデルの実践が金融機関職員の意識
変化、経済活 動の担い手である企業者の意識変化、さらには金融機関の融資判断に影響を及ぼしていることが明らか
にされた。
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● | ソーシャル・イノベーションの実現における地方自治体の役割 -島根県隠岐郡海士町の事例をもとに-
木村隆之(九州産業大学経営学部)
論文要旨▼
地方創生の流れのなか、ソーシャル・イノベーション研究への注目が高まっている。そのプロセスを分析するモデルに
おいて、地域活性化で中心的役割を果たすことを期待されている地方自治体が、イノベーションの創出のための事業機
会の提供や、普及のための正統性の担保として固定化されているという理論的課題が存在している。しかし、島根県隠
岐郡海士町の事例では、地方自治体が変革の主体としてアントレプレナーシップを発揮することによってソーシャル・
イノベーションを実現させていた。本論文は、既存研究において固定化された地方自治体の役割について再考し、変革
の主体として中心的 活動を行うことによって可能となる地域活性化の在り方について分析するものである。
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● | 持続的なボランティア活動と地域団体間の連帯を促進するための地域通貨 -同一地域で実践された2つの地域通貨の比較から-
小林重人(北陸先端科学技術大学院大学)
論文要旨▼
日本では相互扶助を促進するためのツールとして地域通貨が使われてきたが、当初の目的を達しないまま中止となる事
例が多い。本稿では、持続的なボランティア活動を促進する地域通貨の要件を明らかにするために、同一地域で実践さ
れた2つの地域通貨を事例として、地域通貨の需要、使用と流通、運営体制の3点について比較をし、問題点と解決方法
について考察を行った。地域通貨の持続性の要件として 1)地域通貨の需要を確認した上で発行する、2)地域通貨をす
ぐに使用でき る場所の設置や発行の原資として地域資源を用いる、3)運営体制として住民や地域団体を巻き込む、こ
とが示唆された。こ の方法は地域団体間の連帯意識の向上も期待できる。
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● | 食の地産地消と地消地産 ~長野県富士見町でのケーススタディより~
中島恵理(長野県)
論文要旨▼
地方創生にあたっては、既存の地域産の農産物を使った食事を提供してもらおうとする供給者側のニーズに実需者側が
応える「地産地消」だけでなく「提供している食事に必要な素材を地域で生産されているものに置き換えていこ うと
する実需者側のニーズに供給者側が応える「地消地産」による地域経済循環を図っていくことが重要である。長野県富
士見町の飲食店等に対するアンケート調査により、実需者側の飲食店等における実態を把握した。飲食店等の 地域産
利用に関する意識は高いものの、実際の利用実態は高くはない。地域の生産者の生産状況に対するきめ細やか な情報の
発信や生産者との交流といった消費側と生産者側とをより積極的、直接的につなぐ取組や実需者側のニーズ を供給側が
把握して、実需者のニーズに対応した生産及び流通の仕組みづくりが求められる。
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● | フードバンク活動の現状と生活困窮者自立支援との連携状況及び今後の課題
難波江任(愛媛大学大学院連合農学研究科)
論文要旨▼
本稿の目的は、近年、活動に広がりをみせているフードバンク(以下、FB)の現状と生活困窮者支援との連携状況を調
査した結果と、それに基づく政策提言について述べることにある。この調査のため、国内で活動する任意の FB 団体や
生活困 窮者自立支援の相談窓口及び子ども食堂の運営団体に対して訪問・電話・電子メールなどによる問い合せを
行った。その結 果、現在の FB の状況が明らかになり、あわせて、生活困窮者自立支援窓口・子ども食堂との連携状況
に関するデータ集約 を行うことができた。このデータに基づき、生活困窮者自立支援制度での FB 活用の可能性と課題
及び今後、民間・企業・ 行政などが行うべき事項についての政策提言を導き出した
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● | 地域における学習概念の再考:長野県飯田市を事例として
野澤一博(愛媛大学社会共創学部)
論文要旨▼
地域活性化のために、地域では生涯学習や産学官連携活動などの学習活動が盛んにおこなわれている。そこで本稿では
長野県飯田市を例に、地域における学習活動の具体的な取組み状況を分析し、地域と学習との関係について考察した。
飯田市 では様々な学習活動が展開されており、地域における学習には、地域コミュニティ内の関係を強化する同質的な
学習と、異 なる概念を革新的に組み合わせイノベーションのような変化を生み出す学習があった。地域における学習は
目的ではなく地 域を活性化・発展させるための手段である。地域の学習活動を促進するためには、組織的・性格的に
矛盾した要素をもつ学 習の違いに配慮し、地域で学習をデザインすることが必要である。
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● | 新興ワイン産地の形成・発展とそのグローバルブランド化に関する研究 ニュージーランドを事例として
桃井謙祐(信州大学)
論文要旨▼
我が国でもワインの産地として地域活性化を図る地域が増える中、世界の新興ワイン産地の中でもフランスに次いで世
界第二位の輸出単価を確保するニュージーランドに着目し、その事例を分析しつつ新興ワイン産地の形成・発展とその
グローバル化のあり方について考察を行った。その結果、①世界市場で差別化でき評価されるような、その産地ならで
はの品 種の発見、②企業家精神の尊重、競争を通じた新陳代謝とイノベーション、③各産地に合った品種への集中、
④関係者の協 調によるクラスターの形成・進化と、大規模生産者と小規模ワイナリーの共存共栄、⑤ 外資の受け入れ
や国際的な人的交流・ 誘客などを含めた世界的な関係構築、の重要性を指摘した。
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● | 中山間地域の広域的自治におけるリーダー層と活動形態からみた住民参加特性 -島根県雲南市A 地区とB 地区の事例を通じて-
保永展利(島根大学)
論文要旨▼
本研究の目的は、中山間地域の集落の維持、拠点づくりといったより広域的な領域で自治活動を行う自治組織を対象に、
自治組織の活動におけるリーダー層の形成と活動形態から住民参加の特性を明らかにすることである。島根県雲南市
の市 街部に位置するA地区自治組織と中山間部に位置するB地区自治組織を対象として、リーダー層の形成と活動形態の
側面 から実態を分析することにより、次の3つの点が明らかになった。第1に、中山間部の自治組織の方が多様な年齢層
の参 加によってリーダー層が形成されている。第2に、市街部の方が高齢者の参加で成立している。そして、高齢者中
心の組 織活動の中で部会数を縮小しながら対応している。第3に、広域的な自治組織の活動を行う際に自治会長が調整
役になっ ている部分があり、自治活動を円滑に行う上で重要な役割を担っている。以上の結果は、地域コミュニティを
維持していく上で、参加の多様性や活動の柔軟性、旧来からのコミュニティとの関係性をつくること、市街部と農村部
における利用 可能な資源や立地環境などの違いを考慮して支援していくことが重要であることを示唆している。
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● | 観光地ランキングと利便性を使った観光資源の魅力の尺度に関する研究
渡邉毅(法政大学大学院 政策創造研究科)
論文要旨▼
日本でも観光業が成長分野として認識されている。観光地に来てもらうためには、観光資源に強い魅力と利便性が良く
なけ ればならない。本稿は観光資源の魅力と利便性を比較する 1つの尺度となるものを提案する。観光地の主要属性を
抽出する ため、オーストラリアのラトローブ大学のクラウチ教授の「MODELLING DESTINATION COMPETITIVENESS」を利
用した。そこの8個の主要属性を使い、各属性を点数化したものを、観光資源の魅力と利便性の比較尺度とした。データ
元と してネットの観光地ランキングと統計データ及び交通情報などを用いた。具体例として、3 地域間の観光資源の魅
力と利便 性を比較した。そこの弱みと強みをレーダーチャートで示し、同時に季節による変化も比較した。
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