地域活性学会 The Japan Association of Regional Development and Vitalization

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|研究論文集「地域活性研究」Vol.8(2017年3月発行)

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~ 目次 ~

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研究論文

離職者の意識と行動が地域コミットメントに与える影響

片岡亜紀子、石山恒貴、橋本博司(法政大学大学院政策創造研究科)
論文要旨▼
離職期間の経験は外的なキャリアとして評価が得にくい中、離職中に生涯学習の場や NPO 活動を通じ、地域 活動に参 加していた例などが注目されている。そこで本研究では、離職者の学習行動や有益感が地域行動を通 じ、地域への愛 着を意味する地域コミットメントに肯定的な影響が生じるのかについて解明することを目的とする。 回答者 515 名(うち離職期間経験者 241 名)のアンケート調査を分析した結果、離職中の学習行動は地域行動 を通じ 地域コミットメントの下位尺度である情緒、規範へ正の影響を及ぼし、一体化へは影響を及ぼしていな かった。他方、 離職者の有益感は地域との関連が見いだせなかった。以上より離職中の学習行動が地域コミッ トメントを高める重要な 要因であることが明らかになった。


対話(ダイアローグ)とデザイン思考を用いた人材育成・コミュニティ形成・事業創造
-OIC(Obuse Incubation Camp)/OIS(Obuse Innovation school)の試み-

中村一浩*1・保井俊之*2・菊野陽子*1・林亮太郎*1・前野隆司*2
(*1慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属 SDM 研究所
*2慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
論文要旨▼
本研究では、地域活性化の新たな潮流の一つであるソーシャル・イノベーションを実現するために、対話(ダイアロー グ)及びデザイン思考を中心に据えた小布施町での活動(OIC/OIS)を提案した。そして、個人と集団の変容を自己効 力感及び地域活動 DSM-CMM モデル(RAD モデル)を用いて可視化・定量化し、その妥当性を検証した。その結果、対話 (ダイアローグ)は個人の自己効力感を高め、集団の関係性においては外面的並びに内面的関係性を大きく深化させ、 成果として 3つの新規事業を 8 か月で生み出すことを明らかにした。すなわち本活動は、短期間で人を育て、地域に根 付くコミュニティを形成しつつ、事業を創造することを実現した事例であることを示した。


地域間の人材移動の誘因分析

西森雅樹(長崎大学)
論文要旨▼
国・地方の地方創生の総合戦略は、出生率の高い地方から出生率の低い都市圏への人口流入を防ぐことで、出生率の 向上と人口減少の抑制を目指し、地方における雇用創出、子育て支援等の施策が講じている。一方、参考文献によれば、 創造的な人材は多様性・寛容性に富んだ地域に集積し、彼らの活動が地域の豊かさを実現すると指摘されている。本研 究では、 地域の多様性・寛容性、人材の集積、地域の豊かさ、地域間の人口移動に関して共分散構造分析を行ったと ころ、多様性・ 寛容性に引き寄せられた創造的な人材が地域の豊かさを実現し、この豊かさに惹かれて人口が流入す ることが明らかになっ た。


研究ノート

都市高齢者の健康増進事業におけるコミュニティ形成の効果と検証
-東京都三鷹市における実証実験から-

稲垣円(慶應義塾大学大学院) 金子郁容(慶應義塾大学SFC研究所)
論文要旨▼
本論の目的は、都市高齢者を対象とした運動介入実験において、コミュニティの形成を促すためのツールを試行し、 ①コ ミュニティがどのように形成されるのか、②コミュニティが対象者の運動継続にどのような効果をもたらしていた のか、定 性的に分析・考察することである。分析の結果、コミュニティ形成が促された要因は、対象者の中に他者との 関わりを持つ ことに積極的な者や同世代が集まる機会で「仲間づくり」を経験した者が対象者同士の交流を促す起点と なっていたことで あった。運動継続への効果については、理学療法士やトレーナーといった専門家と対象者間の相互の 主体的な関与によって 信頼が醸成され、さらに対象者自身が運動機能の向上を日常生活の中で実感していたことが運動 継続に影響を及ぼしていた。実験終了後には、対象者同士で自発的に運動をテーマとしたサークル活動を始めるなど、 実験時に観察されたコミュニティ 形成の萌芽が、実験終了後にはサークル活動として形成され、対象者が実験終了後も 運動を継続する一つの基盤となったも のと考えられる。高齢者の健康増進への意欲や行動を継続させるには、支援する 側とされる側相互の主体的な関与と対象者 の経験などを考慮した組み合わせや交流を促す仕組みが必要であろう。


水平ネットワーク型連携による構成員の幸福度向上と地域産業活性化
―大田区における下町ボブスレーネットワークプロジェクトの事例から―

奥山睦*1 保井俊之*1 坂倉杏介*2 前野隆司*1
(1*慶應義義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科、2*東京都市大学都市生活学部)
論文要旨▼
日本の中小製造業は、マクロ経済のレベルでは経営のグローバル化やIoTによる産業構造の変化が顕在化し、個別企業 としても輸入品との競合激化を原因とした国内生産、雇用の減少等、様々な課題を抱えている。そのため、水平ネット ワーク型の連携を作り、拡大していくことは、経営資源に限りのある中小製造業が持続的に成長していくために有効な 方策であ り、地域産業を発展させていく牽引力になる。そこで、東京都大田区の「下町ボブスレーネットワークプロ ジェクト」の事 例から、地域産業の活性化を図るためには、水平ネットワーク型プロジェクトの参画と構成員の幸福 度の寄与がファクター となることを検証し、考察する。


山陰海岸におけるジオパーク推進活動のシステム構造に関する定量分析

古安理英子(島根大学) 赤沢克洋(島根大学)
論文要旨▼
本研究の目的はジオパーク推進活動をシステム構造面から評価することである。そのために、山陰海岸ジオパークにお ける活動システムをDEMATELにより解析した。その結果、①活動システムは本源的活動と経済活性化の2つのシステムか ら構成されること、②観光振興に関わる活動は、経済活性化システムの核となり、活動システムの中心的役割を担うこ と、③ジオ資源の魅力を創出する活動は、本源的活動と経済活性化の両システムを結びつけ、推進活動全体のシステム 化を強く促すこと、④人材育成に関わる活動は、諸活動を媒介しており、システム化への貢献があることがわかった。 以上から、山 陰海岸ジオパークの活動システムが優れていると結論づけた。


過疎化が進む中山間地域の生活を向上させる地域イノベーション
-生活圏の拡大を担う生活拠点の運営条件-

鈴木誠二(法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程)
論文要旨▼
過疎化が進む中山間地域の充実した暮らしを持続させるには、生活圏を拡大し、他のコミュニティと新たな関係を築く 必要がある。実現に向けては、相互の情報を集約し結合を促す人材の開発や、新たな活動を促進する拠点創出が求めら れる。 また、活動を活発にするための移動手段は、公共交通が弱体化していることから、住民による自動車運転に限定される。 本稿では、過疎化が進む中山間地域で、自動車移動に必要な環境を整え、コミュニティの発展が期待され、生活圏拡大 の触媒となり得る拠点の条件を検討した。 検討ニあたっては、群馬県みなかみ町の“それぞれの集落住民集う拠点”を事例に用いた。研究により、“コミュニテ ィ活動に成り得る素材や技術を、地域生活者自らが学び啓発するサービス拠点が、店舗として経営が成立”すれば、新 たな共同惟業・他世代/同世代交流の創出を喚起し、エリア拡大の触媒要素となり得ることが明らかになった。 このような拠点を地域で運営する要件は、①地域で、自動車移動に関することも、健康管理項目として、セルフメディ ケーション文化を根付かせること。②店舗には、各集落出身の店員を西週し、他世代/同世代交流・共同作業状況の詳細 情報を提供させること。③運営は、来店動機が長時間/長距離運転することや、店員からの情報をもとに地域活動の参画 機会を槙素することと理解し、メンテナンス艦橋及び他集落住民との交流機会を提供することであった。"


林業の6次産業化を通じた地域活性化:東京都多摩地域におけるTOKYO WOOD普及協会の事例分析

高橋勅徳(首都大学東京大学院社会科学研究科准教授)
論文要旨▼
木論文では、地域活性化の手法として注目される6次産業化について、先行研究の理論的課題を踏まえた事例分析を通じ て、新たな発見事実を見いだナことを目的とする。6次生産化の成功のためには、第一次産業の担い手が単なる生産者に 留まらず、流通・小売りまで垂直的に展開していく起業家精神の獲得が必要不可欠であると指摘されている。しかし、先 行実験6次産業化に必要な企業家精紳を理論的前提としてきたことで、固有の理論的・実践的課題を抱えてきた。そこで 木論文では、近年の企業家河究の理論的視座である関係論的転回に基づく分析視角の下で、6次生産化の事例を分析する。


老舗企業のCSV 戦略による地域活性化 ~共通価値の創造が日本を元気にする~

西岡慶子(大阪大学) 玄場公規(法政大学) 上西啓介(大阪大学) 加賀有津子(大阪大学)
論文要旨▼
地域活性化には雇用を産む多様な産業が存在しなければならない。その中心的な存在である老舗企業には、経営資源を 競争戦略として最大限に活かした、イノベーションの創出が地域活性化の観点からも求められる。 本研究では、独自 に超60 年企業 43,693 社を老舗企業として抽出した上で、地域活性指数との間で定量分析を行い、また、 Porter が 提唱しているCSV が企業の競争戦略のみならず地域活性化に資するかについて分析した。分析の結果、老舗企業数 と 地域活性化指数の間には、ほとんど有意な相関は認められなかったものの、詳細なケーススタディによりCSV が競争戦 略になり得ると同時に地域活性化に貢献する可能性を示唆し、その必要条件を提示した


自治体-大学協働の地域活性化事業に関する効果検証

西川洋行(県立広島大学)
論文要旨▼
地方創生の推進に向けて、地域の自治体と大学の連携による地域振興や地域の課題解決事業が始まっている。自治体 等が抱える地域課題を大学との連携によって解決を図る協働事業に関し、これまでに大学の視点での評価を実施し事業 改善 等を図るための研究を行ってきたが、今回は自治体側の視点で評価を行い、成果を活用する当事者の立場から課題 や改善点 の解明に取り組んだ。大学評価では把握できなかった事業プロセスの実態を解明し、これまで効果が無いと考 えられていた プロジェクト実施中の計画修正プロセスに重要な機能が存在することを明らかにした。本研究で明らかに なった情報や知見 と先行研究の結果を融合し、新たな事業改善案にまとめた。


地域共創プロセスの水平展開支援するプラットフォームの構築

堀田竜士、涌井美帆子、飯田靖(富士ゼロックス株式会社)
論文要旨▼
地方創生に代表されるように、日本全国の地域の活力の向上が望まれている今日、地域内外の人々の知恵を活用した地 域共 創の取り組みは、特定の地域だけではなく、全国的に実施されることが望ましい。そこで我々は、岩手県遠野市で 価値検証 を行った地域共創プロセスの水平展開を支援するプラットフォームを構築した。プラットフォームを活用した 地域共創プロ セスの水平展開の推進者に対するインタビュー調査を通じて、現場の活動の推進にプラットフォームが寄 与していることが 明らかになった。また、推進者の不安の軽減、地域の協力者の主体性の向上、地域共創プロセスの水 平展開の属人化を防ぐ 手段としての効果があることも分かった。


岩手県久慈市および野田村の境界にある一漁業集落の民族誌
―津波被災後に地域活性の中心となった地区集会施設(公民館)の利用を事例として―

松永有希子(東京海洋大学大学院海洋科学技術専攻科)
論文要旨▼
本稿は、2011 年の津波被災地である一漁業集落での、被災後の「集会施設(公民館)の利用」について、人類学や民 俗学 研究の礎ともいえる長期間のフィールドワークでの参与観察に基づき考察したものである。特に、具体的な事例 として、本 施設を利用して実施された、村落内の子どもたちとその保護者および地区代表者による協働プロジェクト を挙げ、当該地区 と村落民の特徴を示し、本施設の利用を介した地域活性化に必要な条件とその可能性について明ら かにする。


2002 年FIFA 日韓ワールドカップのキャンプ地における「ソフトレガシー」の形成過程
-「ソフトレガシー」が形成された 4 自治体の事例分析-

松橋崇史(拓殖大学)
論文要旨▼
本論では、2002 年FIFA 日韓ワールドカップ開催時において各国代表のキャンプ誘致に成功した自治体の中で、キャン プ 開催とそれを支援するための取り組みが、地域内のシンボルの創出や交流人口の増加に寄与するといった「事業」と それを 支える組織的活動(以下、ソフトレガシー)の形成につながり、今日まで、それが続いている4自治体を取り上 げ、4自治 体の事例から組織的活動が継続してきた過程を把握する。キャンプへの準備と支援の活動がソフトレガシー 形成に直結して いるのではなく、キャンプ開催の前後に、キャンプへの支援で見られたような地域の多様な主体の支援 を受け入れる組織的 活動を生み出していくことが重要だということが示唆された。


経済レジリエンスおよび頑健性のある地方都市の特定

山本尚史(拓殖大学)
論文要旨▼
本研究は、「リーマンショック不況」から各市が受けた影響の度合いおよびその後の変化を分析することにより、ショ ックから回復した市や、レジリエンスおよび頑健書性がある市を特定ることを目的としている。レジリエンスや頑健陛 がある市を特定することができれば、その市を調査することによって、レジリエンスや頑健陛をもたらす原因を発見す ることにつながる。さらに、地域経済においてレジリエンスや頑健陛の源を強化する政策の立案も可能になる。本研究 では、商業統計および工業統計のデータを活用して分析した結果、商業において回復状態にあった6市と、製造業にお いて回復状態にありレジリエンスもあった14市とを特定することができた。しかし、頑健性がある市と敏感陛がある市 との相違や、レジリエンス がある市と脆弱である市との相違についての分析などが十分ではない。今後は、各市のケー ススタディなどを行い、地域経済の持読可能性を高める要素の役害を確認るとともに、それらを向上させる要因を明ら かにしたしたい。


事例研究報告

道の駅による地域活性効果の規定要因に関する定量分析

赤沢克洋(島根大学)、古安理英子(島根大学)
論文要旨▼
本研究の目的は道の駅による地域活性効果の規定要因を定量的に明らかにすることである。そのために、潜在クラス 分析を用いて道の駅を類型化した上で、パス解析を用いて地域活性効果の規定要因に関する構造モデルを推定した。 その結果、道の駅は4つの類型に分類され、さらに、販売活性効果では地域住民との協力関係、特産品の販売および豊富 な交通量、 雇用促進効果では地域住民との協力関係と食事関連の経営戦略、観光誘客効果では行政との協力関係、観光 地経由地として の立地、地域魅力の情報提供、接客サービスおよびイベント開催、拠点活性効果では地域住民との協力 関係、有名な農産物 の存在および住民施設や展示施設の充実が主要な規定要因であることが示された。


既存関係構造の利用から見出される 6 次産業化
~株式会社みやじ豚のブランド構築の事例を通じて

石黒督朗(東京経済大学経営学部)
論文要旨▼
本研究の目的は、農畜作業における 6次産業化について、近年の企業家研究の知見に基づいた分析を行うことで、6次 産業化を通じた地域活性化の新たな発見を見出すことにある。農業経営者を不利な状況に陥らせる既存関係構造からの 脱却として議論されてきた 6次産業化だが、経営資源に乏しい多くの農業経営者にとってその実現は困難である。そこ で株式会社みやじ 豚の分析を通じて本研究では、既存関係構造を利用することで、構造的不利な農業経営者が既存関係 構造の中にリスクを負担 させつつ、 6次産業化の実現に向けた新たな利害関係を構築する企業家活動を、新たな 6次産業化の実践手法として分析する。


福祉事業所による農業参入を通じた農福連携の意義と課題―就労継続支援(B型)2事例の比較より

小川 真如(早稲田大学大学院)
論文要旨▼
本研究は、福祉事業所による農業参入を通じた農福連携の意義と課題を、就労継続支援(B型)2事例の比較より明らか にした。これまで、就労継続支援(B型)については、就労継続支援の利用者の多数を占め、利用者の障害の程度が多様 である ことが指摘されつつも、具体的な実態について、言及や分析はされていなかった。本研究の結果、障害の程度の 分布を踏ま えた独自の経営判断や、経営上の農業参入の意義や農地集積行動に差異があることが明らかとなった。 “福祉”と“労働”の あり方について制度的な整備がなされていない現状において、比較的の労働能力が高い障害者の 評価や作業分担については、 現場によって対応・模索されている現状が明らかとなった。


地方国立大学と地域金融機関の連携による地域経済活性化システム
~「山形大学方式」と「米沢信用金庫モデル」~

加藤博良*1,2,武田哲*2,小野浩幸*1 (*1山形大学大学院理工学研究科 *2米沢信用金庫)
論文要旨▼
本研究は、地域経済の活性化とそれに密接に関係する地域金融機関の金融モデルの変化に関するものである。地域金融 機関が地方創生の担い手として期待される経緯を踏まえつつ、本研究では、山形大学が独自に行っている金融機関との 連携による中小企業支援・地域活性化の「山形大学方式」と、その山形大学方式に独自の取組みを加えた米沢信用金庫 による 「米沢信用金庫モデル」を取り上げた。本稿の分析により、米沢信用金庫モデルの実践が金融機関職員の意識 変化、経済活 動の担い手である企業者の意識変化、さらには金融機関の融資判断に影響を及ぼしていることが明らか にされた。


ソーシャル・イノベーションの実現における地方自治体の役割
-島根県隠岐郡海士町の事例をもとに-

木村隆之(九州産業大学経営学部)
論文要旨▼
地方創生の流れのなか、ソーシャル・イノベーション研究への注目が高まっている。そのプロセスを分析するモデルに おいて、地域活性化で中心的役割を果たすことを期待されている地方自治体が、イノベーションの創出のための事業機 会の提供や、普及のための正統性の担保として固定化されているという理論的課題が存在している。しかし、島根県隠 岐郡海士町の事例では、地方自治体が変革の主体としてアントレプレナーシップを発揮することによってソーシャル・ イノベーションを実現させていた。本論文は、既存研究において固定化された地方自治体の役割について再考し、変革 の主体として中心的 活動を行うことによって可能となる地域活性化の在り方について分析するものである。


持続的なボランティア活動と地域団体間の連帯を促進するための地域通貨
-同一地域で実践された2つの地域通貨の比較から-

小林重人(北陸先端科学技術大学院大学)
論文要旨▼
日本では相互扶助を促進するためのツールとして地域通貨が使われてきたが、当初の目的を達しないまま中止となる事 例が多い。本稿では、持続的なボランティア活動を促進する地域通貨の要件を明らかにするために、同一地域で実践さ れた2つの地域通貨を事例として、地域通貨の需要、使用と流通、運営体制の3点について比較をし、問題点と解決方法 について考察を行った。地域通貨の持続性の要件として 1)地域通貨の需要を確認した上で発行する、2)地域通貨をす ぐに使用でき る場所の設置や発行の原資として地域資源を用いる、3)運営体制として住民や地域団体を巻き込む、こ とが示唆された。こ の方法は地域団体間の連帯意識の向上も期待できる。


食の地産地消と地消地産 ~長野県富士見町でのケーススタディより~

中島恵理(長野県)
論文要旨▼
地方創生にあたっては、既存の地域産の農産物を使った食事を提供してもらおうとする供給者側のニーズに実需者側が 応える「地産地消」だけでなく「提供している食事に必要な素材を地域で生産されているものに置き換えていこ うと する実需者側のニーズに供給者側が応える「地消地産」による地域経済循環を図っていくことが重要である。長野県富 士見町の飲食店等に対するアンケート調査により、実需者側の飲食店等における実態を把握した。飲食店等の 地域産 利用に関する意識は高いものの、実際の利用実態は高くはない。地域の生産者の生産状況に対するきめ細やか な情報の 発信や生産者との交流といった消費側と生産者側とをより積極的、直接的につなぐ取組や実需者側のニーズ を供給側が 把握して、実需者のニーズに対応した生産及び流通の仕組みづくりが求められる。


フードバンク活動の現状と生活困窮者自立支援との連携状況及び今後の課題

難波江任(愛媛大学大学院連合農学研究科)
論文要旨▼
本稿の目的は、近年、活動に広がりをみせているフードバンク(以下、FB)の現状と生活困窮者支援との連携状況を調 査した結果と、それに基づく政策提言について述べることにある。この調査のため、国内で活動する任意の FB 団体や 生活困 窮者自立支援の相談窓口及び子ども食堂の運営団体に対して訪問・電話・電子メールなどによる問い合せを 行った。その結 果、現在の FB の状況が明らかになり、あわせて、生活困窮者自立支援窓口・子ども食堂との連携状況 に関するデータ集約 を行うことができた。このデータに基づき、生活困窮者自立支援制度での FB 活用の可能性と課題 及び今後、民間・企業・ 行政などが行うべき事項についての政策提言を導き出した


地域における学習概念の再考:長野県飯田市を事例として

野澤一博(愛媛大学社会共創学部)
論文要旨▼
地域活性化のために、地域では生涯学習や産学官連携活動などの学習活動が盛んにおこなわれている。そこで本稿では 長野県飯田市を例に、地域における学習活動の具体的な取組み状況を分析し、地域と学習との関係について考察した。 飯田市 では様々な学習活動が展開されており、地域における学習には、地域コミュニティ内の関係を強化する同質的な 学習と、異 なる概念を革新的に組み合わせイノベーションのような変化を生み出す学習があった。地域における学習は 目的ではなく地 域を活性化・発展させるための手段である。地域の学習活動を促進するためには、組織的・性格的に 矛盾した要素をもつ学 習の違いに配慮し、地域で学習をデザインすることが必要である。


新興ワイン産地の形成・発展とそのグローバルブランド化に関する研究 ニュージーランドを事例として

桃井謙祐(信州大学)
論文要旨▼
我が国でもワインの産地として地域活性化を図る地域が増える中、世界の新興ワイン産地の中でもフランスに次いで世 界第二位の輸出単価を確保するニュージーランドに着目し、その事例を分析しつつ新興ワイン産地の形成・発展とその グローバル化のあり方について考察を行った。その結果、①世界市場で差別化でき評価されるような、その産地ならで はの品 種の発見、②企業家精神の尊重、競争を通じた新陳代謝とイノベーション、③各産地に合った品種への集中、 ④関係者の協 調によるクラスターの形成・進化と、大規模生産者と小規模ワイナリーの共存共栄、⑤ 外資の受け入れ や国際的な人的交流・ 誘客などを含めた世界的な関係構築、の重要性を指摘した。


中山間地域の広域的自治におけるリーダー層と活動形態からみた住民参加特性
-島根県雲南市A 地区とB 地区の事例を通じて-

保永展利(島根大学)
論文要旨▼
本研究の目的は、中山間地域の集落の維持、拠点づくりといったより広域的な領域で自治活動を行う自治組織を対象に、 自治組織の活動におけるリーダー層の形成と活動形態から住民参加の特性を明らかにすることである。島根県雲南市 の市 街部に位置するA地区自治組織と中山間部に位置するB地区自治組織を対象として、リーダー層の形成と活動形態の 側面 から実態を分析することにより、次の3つの点が明らかになった。第1に、中山間部の自治組織の方が多様な年齢層 の参 加によってリーダー層が形成されている。第2に、市街部の方が高齢者の参加で成立している。そして、高齢者中 心の組 織活動の中で部会数を縮小しながら対応している。第3に、広域的な自治組織の活動を行う際に自治会長が調整 役になっ ている部分があり、自治活動を円滑に行う上で重要な役割を担っている。以上の結果は、地域コミュニティを 維持していく上で、参加の多様性や活動の柔軟性、旧来からのコミュニティとの関係性をつくること、市街部と農村部 における利用 可能な資源や立地環境などの違いを考慮して支援していくことが重要であることを示唆している。


観光地ランキングと利便性を使った観光資源の魅力の尺度に関する研究

渡邉毅(法政大学大学院 政策創造研究科)
論文要旨▼
日本でも観光業が成長分野として認識されている。観光地に来てもらうためには、観光資源に強い魅力と利便性が良く なけ ればならない。本稿は観光資源の魅力と利便性を比較する 1つの尺度となるものを提案する。観光地の主要属性を 抽出する ため、オーストラリアのラトローブ大学のクラウチ教授の「MODELLING DESTINATION COMPETITIVENESS」を利 用した。そこの8個の主要属性を使い、各属性を点数化したものを、観光資源の魅力と利便性の比較尺度とした。データ 元と してネットの観光地ランキングと統計データ及び交通情報などを用いた。具体例として、3 地域間の観光資源の魅 力と利便 性を比較した。そこの弱みと強みをレーダーチャートで示し、同時に季節による変化も比較した。


事例紹介

北海道弟子屈町におけるワイン産業を通じた地域活性化の試み

石川晃士(玉川大学農学部)
論文要旨▼
我が国では、近年の様々な環境変容に対応する農業振興の一環として、地域一体となった農産物の差別化が注目を浴び るようになってきた。特にその具体例として、地場産品の地域ブランド化が挙げられるが、生産品としての地域の一体 感を伴ったブランド化は、様々なアクターが存在し、共存することから、自治体が重要な役割を担うことが多い。そし て、その重 要な役割に、地域おこし協力隊が活用され、地域が活性化する事例が徐々に認知されてきている。本稿では、 ひがし北海道 の弟子屈町で新たに地域ブランドとして取り組みが始まった「弟子屈ワイン」の試みを自治体の取組の視 点から紹介し、農 産物ブランド化におけるそのプロセスを明らかにした。


会津大学のデータサイエンス講座を通じての地域課題への取組み

石橋史朗(会津大学 産学イノベーションセンター)
論文要旨▼
会津大学では、地域の課題解決をテーマとしたデータ分析の演習授業である「データサイエンス講座」を開講している。 本授業は、学生がテーマ選定から課題解決までを主体的に進めていく PBL(Project Based Learning)形式を採用する とともに、民間企業スタッフを講師陣に迎え、また地元の行政機関からデータ提供の支援を受けるなど、産学官連携の 枠組みを有するユニークな講座である。ここでは本講座における取組みの概要と、地域課題に関する具体的な分析事例 について紹介する。また本講座における産学官連携モデルの仕組み、ならびに行政データの活用による地域活性化の可 能性に関しても考 察した結果について述べる。 "


過疎地域における移動スーパー事業のビジネスモデル革新 -地に根ざしたの業新と地活性-

稲垣祐輔・桂信太郎・井形元彦(高知工科大学)
論文要旨▼
少子高齢化・人口減少が進中で、買い物難民問題は全国で生じており、その対応策として移動販売ビジネスが注目を集 めている。特に地方の過疎地域においては、食品小売店が廃業した場合、移動手段を持たない住民の生活品調達が困難 となる。過疎地域を巡回して買い物の場をつくる移動スーパーには、過疎地域での生活必需品を日常的に安定して提供 する生活インフラの役割があり、住民のコミュニケーションを促すなど、地域活性の基盤を担っている。しかし、過疎 地域の移動 スーパー事業で採算がとれる事業化を果たし、ビジネスに継続性を持たせることは容易でないとされている。 本稿では、過 疎地域を商圏に持つ独立した食品小売店の移動スーパーの事例について、オペレーションレベルから分 析して、ビジネスモ デル革新のための課題・具現化策を検討した。


多世代・多文化交流による地域活性化の試み

松下幸平・稲木隆一・上田菜央(早稲田大学大学院人間科学研究科)
扇原 淳(早稲田大学人間科学学術院)
論文要旨▼
我々は,埼玉県の中山間地域ふるさと事業調査研究業務(ふるさと支援隊)を受託し,中山間地域の問題解決のため,集 落 の活性化を図ることを目的に活動を行った.「地域とつながる」「自然とつながる」「世界とつながる」という3つ のキーワー ドを活動の理念・目標に据え,大学生や留学生,地域住民とともに地域行事や農作業などの活動を行った. そこで,本稿で は,世代・多文化交流による地域活性化の試みとして,我々が 2012 年度から 2015 年度までの4年に 渡り活動してきた「ふ るさと支援隊」の活動について報告する.


雪印メグミルクのマーケティング戦略 ~研究開発型乳業メーカーの事例研究~

長村知幸(清水町役場、内閣府シティマネージャー)
論文要旨▼
本稿では、雪印メグミルクのヒット商品であるガセリ菌SP 株ヨーグルトのマーケティング戦略に関する事例分析を行 う。まず、機能性ヨーグルト市場の概要について簡潔に記述した上で、同社の成功要因を探る。事例分析の結果、雪印 メグミルクは、 「機能性表示食品」制度を活用して、ヨーグルト市場におけるチャレンジャー企業として需要を喚起し、 機能性ヨーグルト市場を拡大していることが明らかになった。


都市農業の多面的機能と社会的価値 -神奈川県における農業の動向から-

澁谷朋樹(法政大学大学院政策科学研究所)
唐澤克樹(倉敷市立短期大学) 山形新之介(法政大学大学院)
論文要旨▼
日本における都市農業は、都市化・工業化が進行する中で生成された。1968 年に「都市計画法」が施行され たとき、 農業は都市から消えゆく存在としてとらえられていた。しかし、2015 年に「都市農業振興基本法」が 成立するなど、 現在では都市を構成する重要なファクターとして評価されている。そこで本研究では、都市農 業の振興支援策を講じる 自治体に焦点を当て、今後の都市農業における政策の方向性について考察することと した。そして、神奈川県内の 19 市を対象としたアンケート調査、および 2 市へのヒアリング調査を実施した。 その結果、各自治体で都市農業のとら え方が異なること、都市農業の多面的機能への注目が集まっていることが明らかとなった。


地域資源としての『大阪の酒』:歴史・現状・展望

橋本行史・西野宏太郎(関西大学大学院ガバナンス研究科)
論文要旨▼
大阪にはかつて、酒造りの豊かな歴史が存在していたが、現在ではそのイメージがない。本稿では、「大阪の酒」を中 心部と周辺部に区別し、歴史資料や研究文献、統計データ、およびヒアリング調査によって、「大阪の酒」の歴史・現 状を明らかにした上で、酒造業が地域活性化(産業、文化)のための地域資源であるとい う視点から、「大阪の酒」の 復活に向けた一つの展望を示す。


岐阜県重要有形民俗文化財「明治座」大改修を契機とした地域の歴史文化資源発掘と絵本による発信

藤岡伸子(名古屋工業大学)
論文要旨▼
創建から120年を経た「明治座」(中津川市加子母)は、2015年9月に大修理を終えた。伝統的な劇場空間を損なわない よう伝統木造の技を駆使して行われ、セメント瓦だった屋根も、創建当初の板葺き屋根へと復原された結果、他に類の ない明 治の芝居小屋が甦った。復原に要した屋根板は85000枚。その制作は住民が担い、試行錯誤によって制作技術も 復活した。 この大修理は、明治座と地域の120年の歴史をたぐり返す機会となり、記憶を次世代に繋ぎ渡そうという地 域の思いを強固 なものにしたと言える。本論では、この明治座改修のプロセスそのものを地域の新たな文化資源とす るために行った調査と その成果の一つである絵本の制作について報告する。


長野県安曇野市における6次産業推進モデル

矢内和博(松本大学人間健康学部健康栄養学科)
論文要旨▼
長野県は農業と観光で成り立ち、農産物は重要な観光資源であるが、観光客のニーズに合わせた食品の開発、提供が重 要である。本学は、農林水産省主導の6次産業推進事業において助成事業を4年間実施した。また、商品開発を円滑に行 うため、多くの業種との連携が重要であると考え、松本大学地域活性化モデルを構築した。このモデルにより約3億円の 売り上げを達成し、更に拡大している。モデル構築を通して、重要なことは、行政と大学が連携し、各産業を主導する 仕組みを作 ること、そして、新規助成事業最後まで面倒を見ることが重要であると考えた。もっとも重要なことは、食 を通した地域活性を達成し、地域の未来を創造するものである。



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