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|研究論文集「地域活性研究」Vol.9(2018年3月発行)

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~ 目次 ~
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研究論文

需要縮小期における和装産業の取引変容と集積~リスク増大と分業構造変化が集積に与える影響~

奥山雅之(明治大学)
論文要旨▼
本研究では、主に2000 年以降の和装産業を取り上げ、需要縮小期において集積内外の取引がどのように変容し、そ の変容が集積にどのような影響をもたらすかについて産地横断的に観察することで、集積衰退のメカニズムに関しての示唆 を得る。展示販売の常態化や委託販売の増加による機屋の在庫リスクや販売リスクの増大や、集積内企業の倒産・廃業など による「非予定調和的な機能の欠落」は、取引の直接化や垂直統合・内部化という不可逆的な取引変容を引き起こす。これ により、集積内の分業構造は集積拡大前の状態には戻らず、集積内の分業構造に一種の綻びが生じる。

 

サードプレイス志向と地域自己効力感が地域コミットメントに与える影響
-離職期間有無の差異を含めた検討-

片岡亜紀子・石山恒貴(法政大学大学院政策創造研究科)
論文要旨▼
本稿では、サードプレイス志向や地域活動に関する自信(地域自己効力感)が地域コミットメントに影響を及ぼす のか、昨今の生き方や働き方の変化を鑑み、離職期間有無の違いを考慮し解明することを目的とした。 回答者1035 名(離職期間有り515 名、無し520 名)のアンケート調査を分析した結果、離職期間の有無にかからわ ずサードプレイス志向が地域自己効力感を介し地域コミットメントに正の影響を及ぼすこと、交流型サードプレイス 志向から地域コミットメントへの影響には地域交流自己効力感と地域学習自己効力感を媒介とする2 つの経路があ ること、地域の担い手を増やす方策として、離職期間を経験した者は交流型の利用が、離職期間を経験していない者 は交流型とマイプレイス型のバランスの良い利用が有益であることが明らかになった。

 

システムズエンジニアリングによる地域の「場」の設計方法とその評価

坂倉由季子・安部和秀・保井俊之・当麻哲哉・前野隆司(慶應義塾大学)
論文要旨▼
本研究では地域の様々なステークホルダーの協創、協働を促し「地域の知」を創造するプラットフォームとして近年 注目されている「場」の設計方法を、先行研究により提示された「場」の概念をシステムズエンジニアリングの手法を用いて 可視化並びに構造化することにより示した。さらに設計に基づいたプロトタイピングを行い、設計の有効性について、参加者 の心的変化およびアウトプットの測定により定量的に評価した。

 

都市のコンパクト化に資する商業集積の誘導規制方策の研究

佐々木一彰(京都府立大学)
論文要旨▼
自治体レベルで策定・導入される商業集積ガイドラインは、大型店立地の誘導規制により、望ましい商業集積を形成する ことを目的としている。消費者の買物行動など地域特性に合わせて、市域をゾーニングし、地域の商業集積の将来像を提 示した上で、ゾーンごとに望ましい大型店の規模の目安を提示することで、店舗立地の誘導規制を行う。京都市、金沢市 ではガイドライン導入後15年以上が経過し、取組の効果が現れつつある。これらの運用実績を踏まえ、商業集積ガイドラ インは、まちづくり三法が目的とする都市のコンパクト化と都心活性化に寄与する役割を果たすことを検証する。

 

気候変動の市田柿への影響と適応策:長野県高森町の農家アンケートの分析

白井 信雄 (山陽学園大学 地域マネジメント学部)
※2018年3月までは法政大学
中村 洋(地球・人間環境フォーラム)
田中 充 (法政大学 社会学部)
論文要旨▼
地域における気候変動適応策の具体的な検討として、長野県高森町の地域ブランドである市田柿に注目し、農家アンケー ト調査を実施し、統計分析を行った。主要な結果は次の3 点である。(1) 気候変動による被害の深刻度や気候変動の認知、 市田柿生産への思い・考えは、気候条件とともに市田柿の生産規模、市田柿への収入依存度等の経営属性によって規定され る。(2) 気候変動下での市田柿生産の継続意志は生産の楽しさ度に規定される。(3) 経営属性によって実施意向が強い気候 変動適応策が異なる。以上から、生産規模や収入依存度等の経営属性に応じた適応策、あるいは生産の楽しさ度を向上させ る適応策を検討することが必要であると結論づけられる。

 

地域政策と幸福度の因果関係モデルの構築-地域の政策評価への幸福度指標の活用可能性-

高尾真紀子(法政大学大学院政策創造研究科)
保井俊之(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科)
山崎清(株式会社価値総合研究所)
前野隆司(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科)
論文要旨▼
本研究は、地域の政策評価への幸福度指標の活用を図るため、地域政策と幸福度の因果関係モデルを構築すること を目的としている。web 調査による1,691 票の分析の結果、幸福度は個人の属性を統制しても、地域政策の評価が影響する ことが明らかになった。今回対象とした3つの幸福度指標にはいずれも雇用所得政策が最も強く影響しているが、それに加 え、生活満足度には環境住宅政策が、人生満足度には交流安心政策が、主観的幸福度には環境住宅政策と生活利便政策が有 意な影響を与えていた。また、交流安心政策が地域への関与を高め、間接的に幸福度を高めることにつながっていることが 明らかになった。

 

コミュニティ形成における住民の主体性発揮プロセス -震災復興の文脈を中心とした検討-

中尾 公一(東北大学大学院経済学研究科)
論文要旨▼
東日本大震災からの震災復興過程における住民主体によるコミュニティ形成の重要性が、実務家、先行研究などで強 調されている。しかし住民自身が組織としてどのように主体性を発揮していったかの過程は十分に明らかにされていな い。そこで本論では、最大の被害を受けた宮城県の 12 市町 18 地区で活動する関係者からのインタビューデータ(N=69) による定性調査を元に、先行研究で言及された、住民組織が本来享受する①規範形成、②紛争解決、③対外関係調整、 ④住民生活の豊かさ創出、⑤住民の役割・参画創出の5 機能を如何に回復したかを、住民組織の主体的な行動と、NPO・ 大学や自治体等の支援者の役割の観点から明らかにした。

 

フードバンク事業の機能と他事業との連携効果について

難波江 任(愛媛大学大学院連合農学研究科)
論文要旨▼
本稿の目的は、フードバンク(以下、FB)の機能と他事業との連携状況を調査した結果と、それによって明らかになった 効果・課題・政策提言について述べることにある。この調査のため、国内で活動が確認されたFB 団体に対してアンケート 調査を行い、その結果を踏まえて訪問・電話・電子メールなどによる問い合せを行った。また、FB 団体と連携している買 い物弱者支援のための移動式スーパーマーケット(以下、移動スーパー)の事業者及びFB 団体に未利用食料を提供してい るスーパーマーケットの調査を実施した。この結果に基づき、FB 事業が持つ機能とその可能性、他事業との連携による効 果及び今後の課題と政策提言を導き出した。

 

「共創」を生みだす地域づくり実践のエスノグラフィ分析-つくば市北条地区のプロジェクトを事例として-

早川 公(仁愛大学)
論文要旨▼
本研究の目的は、地域づくりにおける共創の様態について具体的実践を検証し、特に外部者が関わる際に必要な要素をエ スノグラフィ分析から明らかにすることである。対象となるのは、茨城県つくば市北条地区において地域活性化事業を展開 する北条街づくり振興会(北条郷WG)と関連団体による4 つのプロジェクトである。プロジェクト・プロセスの記述から 読み取れたことは 3 点である。第1 に、議論可能な場(ディスカーシブ・プラットフォーム)が存在しているか、第2 に行 動すべき準拠枠が共有されているか、そして第3 に、各アクターがポジショニングに基づき相互参照的実践が取れている か、である。今後は、共創の実践を意図的につくり出せるかどうかについての検証が求められる。

 

地域社会において CSV/CRSV を実践するビジネスモデルとその成立要件 -印刷会社発行のフリーペーパー分析を通して-

藤井建人(公益社団法人日本印刷技術協会)
論文要旨▼
本研究は、印刷会社が主体的に発行する地域メディアとしてのフリーペーパーを分析した。フリーペーパーの発行原 資は広告収入だけでなく非金銭的なリターンも含めた様々な方面に求められ、ビジネスモデルは収入視点から 7 分類できる ことが判明した。本稿は特に、地域活性化による恩恵の享受を通じて自社を成長させようとする社会的モデルのフリーペー パーに注目した。地域価値と企業価値を両立させる CSV/CRSV の実践モデル 3 例の分析から、社会性と経済性を同時に追求 するビジネスモデルの成立要件の解明に取り組んだ。その基盤は、共通の地域課題を認識するプレイヤーが相互補完的に経 営資源を提供し合う企業間発行フレームワークを形成、フリーペーパーを通じた地域社会への新たなバリュー・チェーン構 築にあることを見出した。

 
研究ノート

島嶼部におけるアートによる地域づくりに関する考察 ―佐久島(愛知県)を事例として―

井上和久(早稲田大学理工学術院)
論文要旨▼
島嶼部では、人口が継続的に減少し、高齢化率も極めて高い状況にある。将来的に小規模な離島では住民の定住が困難に なる可能性が高く、新たな方策が必要となると考えられる。本稿では、観光を基軸とした地域づくりにアートを活用してい る離島である佐久島を取り上げ、地域コミュニティを中心とした観光地の形成について検討した。その結果、佐久島ではボ トムアップ型の活動としてアートを活用することで、地域コミュニティの活発化が見られ、観光客の誘致に結びついている ことが明らかになった。

 

地方からのサプライチェーン革新 :ダイレクトマーケティングによる地域商品の市場導入

岩永洋平(法政大学大学院政策創造研究科)
論文要旨▼
公的支援によるチャネルの枠を離れて市場導入をはかろうとする地方事業者にとって有効な販路は何か。本研究 では震災の被害を超えて成長する岩手の事業者のケーススタディを通じて、商品・サービスの価値を持続的に向上させ るダイレクトマーケティングの循環的なサプライチェーンの構造を明らかにした。次いでブランド想起要素分析と仮想 市場評価法を適用して当該事業のマーケティング活動のスピルオーバー効果を検証したところ、地域の共有資産である 地域ブランドの価値向上と価格プレミアム形成に貢献していることが判明した。また同事業者と顧客との関係は、商取 引関係を超えた共同性が形成されて被災地の復興を支えていた。

 

持続可能な地方移住のための組織社会化理論の地域応用 ~土佐山地域を事例とした“地域社会化”~

勝田千砂、石山恒貴(法政大学大学院政策創造研究科)
論文要旨▼
地方創生において移住が注目されている一方で、移住希望者が移住に踏み切れない理由の一つとして「地域にうまくなじ めるか」という問題が上位にあがっている。組織に新規参入者がなじむためのプロセスとして「組織社会化」は広く研究さ れている。これを地域に応用することを意図して調査を実施した。 Webアンケート調査では、「組織社会化」と「地域愛着」の尺度を用いて重回帰分析を行なった。その結果、地域社会化 が促進される要因として、地域活動に参画するだけでなく、その業務プロセスまで理解するレベルで参画することにより、 地域の文化に対する理解が深まり、地域愛着を持つことがわかった。また、地域のFacebookグループをテキストマイニン グした結果、日常生活や地域活動に関する情報は移住者同士でやり取りしており、地域の社会化エージェントはほとんど関 与していないことがわかった。分析結果に基づくと、行政、NPOなどの社会化エージェント、地域住民が手を携え、「移住 者が自律する仕組み」や「地域を人が巡る仕組み」をいかに構築していくかが持続可能な移住への重要な鍵となる。

 

高齢者に焦点をあてた地域雇用政策 -「労働市場の媒介項」に関する事例研究

岸田泰則(法政大学大学院)
論文要旨▼
本稿では生涯現役促進地域連携事業に選定された石川県人材確保・定住推進機構に焦点をあて、地域の高齢者労働市 場の媒介項の形成過程と有効に機能するための役割を探求した。地方公共セクターが企業へ手厚い支援を行い信頼関係が構 築できていること、および地域の高齢者雇用を地域の社会的課題として捉える地域型社会的企業が存在すること、この2 条 件が同時に並存することで地域の高齢者労働市場の媒介項の形成プロセスが開始されることが示唆された。その他、ハロー ワークとの緊密な連携によるワンストップ性の担保、労働力需要の構造を企業・労働者双方に有益な方向へ変える機能、地 域特性を生かした就労支援といった3 つの機能が示唆された。

 

交流拠点とネットを活用した地域・大学連携

小出 秀雄(西南学院大学経済学部)
論文要旨▼
西南学院大学教育インキュベートプログラム「姪浜西南大学まち」は、学生の社会力向上と地域の活性化を目的とした教 育プロジェクトである。本研究は、実践コミュニティの理念に沿った同プロジェクトにおいて、地域と大学の交流拠点であ るコミュニティカフェ(=M’s コミュニティ)がどのようなリアルな交流を生み、Facebook ページなどのネットでその情報 がどのように共有され、さらにリアルな行動をどう喚起しているかを検討する。Facebook ページにおいて写真などの画像や リンク先を添えた発信は反応(リアクション)がよい上に、最近は学生自らの発信や新聞記事の掲載が増えており、次のリ アルな行動に結びつきやすくなっている。

 

「ひとり親家庭の支援施策の在り方について」 ~在宅就業支援事業を先駆的に取り組んだ地域を事例に~

佐藤 俊恵(法政大学大学院政策創造研究科)
論文要旨▼
本論文は、子どもの養育と生計の維持を一人で担わなければならないひとり親家庭等にとって効果的な就業形態の一つと して、平成21 年度の補正予算による「安心こども基金」を財源に平成25 年度まで実施された「在宅就業支援事業」を中心 に論じる。在宅就業支援事業は、自治体から委託を受けた事業実施者が、「業務の開拓」、「参加者の能力開発」、「業務処理の 円滑な遂行」等を一体的に取り組むことが特徴で、これまでの母子福祉施策において例のない画期的な取組であった。在宅 就業支援事業を先駆的に取り組んだ4 つの自治体を事例として取り上げ、ひとり親家庭にとって、必要な支援施策の在り方 について検証した。

 

インターンシップを活用した地域活性化マーケティングの可能性

柴田仁夫(埼玉学園大学経済経営学部専任講師)
論文要旨▼
本稿では、中小企業がインターンシップを通じて地域と深く関わってきた事例から、中小企業のインターンシップの活用が 地域活性化マーケティングの 1 つの方法として成り立つことを明らかにした。インターン生は、「よそ者、若者、ばか者」 となり、地域の子ども達が創造した「価値」を、複数の地域企業や受入先企業、小学校といったコミュニティを行き来して これらを繋ぐブローカーとなって「伝達」・「提供」する。このようにインターン生が地域の小学校等と結びつくことで、地 域企業や受入先企業が活性化することが明らかになった。

 

地域経済をめぐる二つの対立的貨幣観をテーマにした 協創型ビジネスゲームにおける地域住民の内的活力の分析: ― 主観的幸福の4 因子モデルによる定量評価を通じて ―

末吉隆彦*1・*2、保井俊之1、飛鳥井正道*1・*2、江上広行*3、本條陽子*4、前野隆司*1
*1慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
*2クウジット株式会社
*3株式会社電通国際情報サービス
*4株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所
論文要旨▼
本研究では、地域活性化において持続可能な経済活動と地域活動に参加する地域住民個人の内発的な活力が重要であ ること、並びに地域の経済市場参加者の動機づけに関して、利潤最大化及び感謝最大化という二つの対立する貨幣観が根底 にあることに着目し、二つの貨幣観の違いに関する直感的な気づきを支援する協創型ビジネスゲームおよびワークショップ モデルを開発し、実証フィールドを選定し実施した。実施時に参加者の幸福の4 因子等による主観的幸福度の定量的検証を 行うとともに、エスノグラフィ及び事後アンケートによるその後の行動変容の定性的検証を補完的に行い、地域活性化に資 する内発的活力向上に対する有効性を検証した。以上により、本協創型ビジネスゲームおよび本ワークショップモデルを、 地域活性化に資する要因の1つである参加者の内発的活力の向上を通じて、その有効性を定量的に示した。

 

地方創生インターシップ活用による地域の活性化 -地域イノベーションを創出させる、地方創生インターンシップの展開条件-

鈴木 誠二(法政大学大学院 政策創造研究科 博士後期課程)
論文要旨▼
地域の活性化に向けては、地域企業の競争力を高め、雇用の拡大と所得の向上を、実現させる必要がある。しかし、地方 の企業は、慢性的な人手不足により、成長に向けたイノベーションが停滞し、地域の活性化を阻害する要因となっている。 人手不足の主な要因は、進学や就職を機とした都市部への人材流出であり、地方の過疎化にも大きな影響を及ぼしている。 本稿では、過疎化が進む首都圏近郊の農山村地域で、地域イノベーションを創出させる、地方創生インターンシップの展 開方法を検討した。検討にあたっては、群馬県みなかみ町の、「一般社団法人みなかみ町体験旅行」を事例に用いた。 研究により、地方創生インターンシップの受入れは、地域や企業に潜在するアントレプレナーシップを触発する機会と捉 え、キャリア教育の一環として展開すれば、組織への帰属意識を高め、地域イノベーションの創出が期待されると導けた。 展開条件は、①事業経営者や地域住民と、事業創出やキャリアデザインに関する議論の場を設けること。②UI ターン経験 者を、キャリアデザインを支援するメンターとして配置し、就業体験の前後も関与させること。③提供する商品のお客様体 験、従業員との共同作業体験、住民宅への宿泊等の生活体験もカリキュラム化し、地域一体で提供することであった。

 

みかん耕作放棄地再生の可能性検証

都丸孝之, 西山紀明, 横田宰也, 林美香子, 中野冠
(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科)
論文要旨▼
本研究では、みかん耕作放棄地を再生するための諸条件、日照不足での生育可否、鳥獣被害、作業時間あたりの収益性、 初期投資の軽減、市場規模等を設定し、それらの全ての条件を満たす農作物を見いだすことができれば耕作放棄地を再生で きるという仮説をたて検証を行った。みかんの産地である神奈川県小田原市片浦地域で検証した結果、レモンは耕作放棄地 になりやすい日照不足の農地でも比較的生育が可能なこと、イノシシなどの鳥獣被害がないこと、作業時間あたりの収益性 がみかんに比べ 3 倍以上あること、既存の農機具が活用でき初期投資が抑えられること、レモンの需要拡大の可能性から、 みかんの耕作放棄地を再生できる可能性を示した。

 

私立大学の公立大学化が地元定着に及ぼした影響に関する一考察-地元入学者数の推移に着目して-

鳥山亜由美(法政大学大学院)
論文要旨▼
地方大学が若者の地元定着に果たす役割に対し期待が高まっている。また、期待を背負う大学側が自治体と協議を重ね た上で設置者変更を行い、公立大学に移行する事例が見られる。 本稿では、公立大学化大学及び、その他の地元大学への地元からの入学者数等に着目し、私立大学の公立大学化が地元 定着に及ぼした影響について、考察した。 その結果、公立大学化を行った大学は地元定着に必ずしも寄与しておらず、さらに、県全体においても公立大学化を契 機とした地元入学率の上昇は見られなかった。

 

農村女性の活躍の場としての農産物直売所の役割―山形県鶴岡市の「産直あぐり」を事例として―

藤科智海(山形大学)・阿部百合恵(山形銀行)・小沢亙(山形大学)
論文要旨▼
本稿では、山形県鶴岡市櫛引地区の農産物直売所を対象として、農産物直売所で働く女性従業員や直売に取り組む女 性農業者を調査し、農産物直売所が農村女性の活躍の場として果たしている役割を明らかにした。従業員21 名中18 名の女 性従業員を対象にアンケート調査を行った結果、20 代~60 代の幅広い年代かつ櫛引地区に限らず鶴岡市内に居住する女性 が働いており、68.8%が充実感を感じていることが明らかになった。自分で働いて給料を得られることや、地域や農業の発 展に貢献できることで充実感を得ていた。直売を行う女性農業者を対象としたアンケート調査では、直売を始めたことがき っかけで農業経営に対する意識が向上していることが明らかになった。

 

世界遺産における旅行の発動要因の充足に関する定量分析-石見銀山を事例として-

古安理英子(鳥取大学) 赤沢克洋(島根大学)
論文要旨▼
本研究では、産業遺産を核とした世界遺産において遺産資源と観光化資源が発動要因の充足をもたらすかをパス解析 とアソシエーション分析により検証した。その結果、①遺産資源は発動要因の充足への期待と満足をもたらす効果が限定的 であること、②観光化資源が発動要因の充足に関して遺産資源を補完する役割を担うこと、③期待や満足をもたらす効果の 多くが成果として顕在化しているが、顕在化が十分でないケースもみられることが示された。さらに、観光マネジメントの 展開方向として、遺産資源に関わる観光化資源の充実、自然・食事・お土産の質の向上、散策を前提とした周遊空間の構築 が重要であることが示唆された。

 

地域課題解決のための地域の課題・資源・未来を用いた三次元マトリックス法の提案

宮村貞量*1、保井俊之*1、西村勇也*2、坂倉杏介*3、前野隆司*1
*1慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
*2NPO法人ミラツク
*3東京都市大学
論文要旨▼
本研究では、地域課題を解決するアイデアを地域住民の協創により創発する手法として、三次元マトリックス法を提案する。 すなわち、地域の課題、地域資源、地域住民が描きたい理想の未来という、地域社会を規定する3つの時間に沿った要素を、 強制連想法のひとつであるマトリックス法を2回用いて掛け合わせることによって、地域活性化や地方創生につながる創造 的なアイデアの発想を促す手法を提索する。本手法の有効性について、定量的及び定性的に検証した。その結果、本手法が 地域の課題を地域住民みずからが創造的に解決するモデルとして有効であるとの結論を得た。

 

災害時における地域コミュニティの原則の形成に向けて ー子育て・女性・セクシュアルマイノリティ関連団体へのインタビューからー

森田賢明(NPO 法人 小平・環境の会)
論文要旨▼
本研究の目的は、災害時における地域コミュニティの原則の形成に向けて何が重要かを明らかにすることである。地域コ ミュニティの原則とは、非常時に安全な生活のため、男性、女性、セクシュアルマイノリティが最低限、共有することであ る。調査の結果、地域コミュニティの原則の形成にとって重要なことは、地域コミュニティを構成する地域住民が多様とは 何かを探求しつつ、生活を受け入れる姿勢であった。災害は地震などの自然要因と社会要因によって構成され、社会要因の 地域コミュニティにより影響が左右されるが、多様な生活を受け入れる姿勢が地域住民間で蓄積しているとき、内発的発展 にある連続的な工夫が行われ、生活は安全なものとなる。

 

中山間地域における旧小学校区のコミュニティ評価に関する考察

保永展利、永野萌(島根大学生物資源科学部)
論文要旨▼
本研究は、中山間地域の旧小学校区における自治組織形成後の住民の地域ブランドの水準、コミュニティ力に関する住民 認識、住民満足度との関係を明らかにすることを目的とした。中山間地域において旧小学校区単位で自治活動を展開してい る島根県飯南町谷地区を対象として、住民アンケート調査から住民認識を集落間、大字間、住民属性との関係で明らかにし た。その結果、第一に、住民認識に関する因子として、コミュニティの基礎力、コミュニティの自発的力、コミュニティの 推進力、歴史文化資産、農業関連資産、自然資産が抽出された。第二に、因子から 5 つの住民層に分けることができ、住民 属性との関連では、所属集落、世帯人員、家族の他出の有無と関連を示唆する結果を得た。第三に、生活満足度、自治会満 足度、自治振興会満足度は、クラスター間で若干異なるもののおおむね高い。特定のクラスターでは、不満を感じている住 民が比較的多くみられた。以上の結果は、旧小学校区単位での自治組織形成後の住民サービスを考える上では、集落ごとの 住民属性やそこから生じる認識の違いを把握していくことが重要であることを示唆している。

 

農村地域活性化の課題と展望―愛媛県西予市「百姓百品」の実践から―

山藤篤(愛媛大学)・香月敏孝(愛媛大学)
論文要旨▼
本研究の目的は、過疎化、高齢化が進展する農村地域において独自の展開によって地域の維持・発展に貢献している事例を もとに農村活性化のモデルと位置づけ、取り組みの全体像を明らかにするとともに今後の農村活性化の展望を示すことであ る。 まず統計データを基に農業の構造分析を行い農業・農村の変化を把握する。それを踏まえて、農村内部から自発的に地域活 性化を図っている愛媛県西予市「百姓百品グループ」を事例として、その取り組みと展開を把握する。百姓百品の取組を地 域活性化のモデルとして、地域生協との連携・支援、また農業生産法人設立と福祉施設設立による連携といった取組内容を 詳細に把握する。

 

古墳を活用した地域活性の動向と課題

山中鹿次(NPO法人近畿地域活性ネットワーク)
論文要旨▼
西暦700年頃に日本国が成立するが、その前の時期は、お墓である古墳の大きさや形で、社会階層や権力を誇示していた 時期があり、それが古墳時代である。古墳は奈良時代や江戸時代などのように、時代区分にも採用される文化遺産であり、 従来から重要度の高いものは史跡指定されてきた。それが2013年に関東地区で「古墳にコーフン協会」が設立され、以後、 NHKテレビの「あさイチ」などで取り上げられたり、古墳探訪の単行本も増え、「古墳ブーム」と呼べる状況が続いている。 しかしながらほとんどの古墳は寺社仏閣、著名な城跡に比べ、安全に見学するための体制が追いついていない。 本論では古墳を活用した地域活性の動向、現状と課題を提示していく。

 
事例報告

地域おこし協力隊制度を活用した人文学研究のアクション・リサーチとキャリア開発

石井雅巳(島根県立大学/NPO 法人bootopia)
瀬下翔太(慶應義塾大学SFC 研究所/NPO 法人bootopia)
論文要旨▼
本研究の目的は、哲学の修士号取得者がともに危機が叫ばれる地方と人文学の互恵的な関係を目指してフィールドに入り 込み、大学教員と市民との間の「中間者」として働きかけを行うことで得られた分析を提示すること、加えて、教員と市民 の間に立つことのできるコーディネーター育成の制度にかんする提言を行うことの二点である。 これまで既に様々な分野で大学と地域の連携が試みられているものの、人文学領域での成功例は希少である。そこで、学 術的価値を有しつつも、未だ分析が十分になされていない「地域資源」に着目し、人文学が果たしうる社会的意義と「地域 おこし協力隊」の新たな活用可能性を提示したい。

 

地域ものづくり企業連携組織と会津大学の協業事例

石橋史朗(会津大学 産学イノベーションセンター)
論文要旨▼
製造業を中心とした地域の企業連携組織である会津産業ネットワークフォーラム(ANF)は、2008 年の創設以来、会員 企業間の相互連携と地域振興を目的に様々な活動を推進してきた。その中の1つとして、地元の大学である会津大学との産 学連携活動も2010 年からスタートし、7 年余りが経過した。当初、企業経営者層を中心に情報共有を目的とした活動も、 その後は製造現場を支える中堅社員の研鑽と交流の場を目指すようになるなど、活動の形態や目的も変遷を遂げている。本 稿では、このような活動形態の見直しの状況も含めて、現在までの地域連携の様子を紹介する。また、ものづくり企業と情 報通信技術に特化した大学との間の連携活動を持続させるための工夫点についても、考察した結果について述べる。

 

地域再生におけるネットワーク構築の問題点とその解決策 ──島根県での実践活動による考察──

井上厚史(島根県立大学)、瀬下翔太(NPO 法人bootopia 代表理事)
論文要旨▼
本研究は、島根県立大学井上厚史ゼミが 2007~11年にかけて取り組んだ「銀山街道ネットワーク」の経験をもとに、中山 間地域における地域再生の問題点とその解決策について具体的かつ理論的に考察したものである。因習が根強く残り、近隣村 落との交流に消極的な中山間地域において、どうすれば広域ネットワークを構築できるのか。その解決策を発見するために、 島根県の特徴的な2つのネットワーク、および比較事例としての滋賀県高島市のネットワークを分析した結果、保守的な集落 同士をつなぐネットワークを構築するためには、地域への「共感」と「敬意」を抱いて広域的に活動できる NPO 法人が必要 不可欠なアクターであることを検証した。

 

ICT を活用した地域交流を促進するコミュニティカフェの創造

岩垣穂大(早稲田大学人間総合研究センター)
又木倖明(早稲田大学人間科学部)
扇原 淳(早稲田大学人間科学学術院)
論文要旨▼
高齢者における社会参加の場の提供を目的としたコミュニティカフェが全国で増加している.そこで,本研究では,ICT (情報通信技術)を活用して,コミュニティカフェの利用促進を目的とした Web ページを作成・運用し,その評価を行っ た.Web上の自由記述アンケートに回答した37名182記録単位をベレルソンの内容分析によって分析した.その結果,【Web ページのレイアウトに関する指摘】,【コミュニティカフェの利用者情報に関する指摘】等の6 つのカテゴリと44 サブカテ ゴリに分類された.そこから,高齢者がコミュニティカフェを利用する際の配慮の必要性や,コミュニティカフェの利用者 情報を詳細に記述するなど工夫が重要であることが指摘された.

 

中山間地域を舞台にした中学生・留学生・大学生が協働で行う地元観光プランの提案

上田菜央*1,横山 佑*1,岩垣穂大*1,齋藤 篤*1
カディコバ サマル*2,アマンタイ ジャナル*2,エム ナタリア*2,扇原 淳*1
*1早稲田大学、*2アル・ファラビカザフ国立大学
論文要旨▼
埼玉県皆野町三沢地区において、多世代多文化交流による中山間地域集落の活性化を目指し、大学生や留学生、地域住民 と共に地域行事や農作業等の活動を2012 年から行ってきた。今回は地元中学生、大学生、留学生による、観光プランの提案 を中心とするワークショップ型地域・国際理解教育を行った。この結果、「地域の魅力再発見」、「ワークショップデザイン」、 「異文化理解」等、参加者それぞれの立場での気づきがあり、特に大学生にとって、本活動が地域課題を把握した上での学 問的知見を活かした提案力、地域変革を実践するリーダーとしてのマインドセット醸成等の機会となっていたと考えられた。 今回明らかとなった課題を改善し、関係各所との調整を行いながら今後も継続して取り組むことを目指している。

 

自治体間連携による新たな自治体シンクタンク -最上地域政策研究所を事例として-

小野英一(東北公益文科大学)
論文要旨▼
1990 年代以降地方分権が進展し、自治体自らが政策を企画立案し、主体的に行政運営していく時代となっている。そして そうした中、自治体において自治体シンクタンクを設置する潮流が現れている。県、市町村、一部事務組合の自治体間連携 による自治体シンクタンクという新たな取り組みを行っているのが山形県最上地域の最上地域政策研究所である。本稿では 最上地域政策研究所を事例として取り上げ、最上地域政策研究所のこれまでの2 期4 年間の取り組みを追跡し、自治体間連 携による新たな自治体シンクタンクについての事例研究報告を行う。

 

ローカル鉄道の新しい活用の可能性に関する事例研究

金山 智子(情報科学芸術大学院大学)
論文要旨▼
車社会や少子高齢化など環境変化から厳しい経営状況にあるローカル鉄道は、旅客輸送から観光資源としての価値創出を 目指し、様々な取組みを実施している。これらの多くは課題解決としての効果は認められる一方で、取組みは画一的な内容 となる傾向があり、本来のローカル鉄道の特徴や可能性を活かしているとは言い難い。感性が経済価値を生む時代となり、 クリエイティブ・クラスとの共創によって共感を生む活用が求められる中、本研究は、樽見鉄道とクリエイティブ・クラス による新しい活用を試みた。実践を通して、新しい感性価値が新たな需要創出を促し、鉄道従事者らの意識にも影響を与え ていることが観察された。

 

ヘルスケアビジネスリソースの地域性分析と、グローバル化による地域展開の可能性一考察

上村 一平(高知工科大学大学院)
論文要旨▼
日本は世界でも有数の高齢社会に突入している。総人口は 2010 年頃にピークアウトし、年齢別人口構成も戦後のピ ラミッド型からつぼ型へと変化している。今後は急速な少子化も相まって高齢人口が占める割合は徐々に高まり、「2050 年問 題」と言われる 2050 年には逆ピラミッド型の超高齢化社会を迎えると予想されている。高齢化に伴い日本のヘルスケアビジ ネスは急速に発展してきている。日本はその高い医療水準と長年蓄積されてきたノウハウが今後のグローバル化したビジネス 環境で大いなる強みとなる可能性を秘めている。本研究では、日本のヘルスケアビジネスリソースの地域特性の分析を行い、 地域リソースと人口減少の偏在化に着目した。さらに中国をはじめとした東アジア地域の医療ビジネスについて分析を行ない、 日本のヘルススケアビジネスのグローバル化による地域展開の可能性について考察を行った。

 

空堀商店街における町屋再生-約10年を経て-

菊森 智絵(関西大学大学院ガバナンス研究科)
論文要旨▼
空堀商店街地区には町屋を再生した店舗が多く見られる。そのきっかけともなったからほり倶楽部の活動 は地域活性化の起爆剤として魅力ある研究サイトである。他の地域に住む「よそ者」とも言える彼らを引き付け る魅力が空堀地区にはある。周辺には上町台地の歴史的遺産だけでなく、現代的観光資源も豊富にあり、大阪空 襲を奇跡的に免れたという特別な何かがあるのかもしれない。迷路のような路地、路地裏の空間、石畳等を活用 した彼らのイベントから地域活性化の手がかりの発見を試みた。

 

大学の教養体育授業(ゴルフ)が大学・地域・産業を繋いだ事例 -新学問領域「連携教育科学」の提案と地域活性化の可能性-

北 徹朗(武蔵野美術大学)
論文要旨▼
多くの大学の教養体育授業で「ゴルフ」は教材とされている。しかしながら、580 を超える授業のうち約530 の授業では、 大学内の施設や省スペースでプラスチックや穴あきボールを利用した体育実技で完結している。2016 年6 月27 日の産学連 携協定締結をきっかけに、ゴルフ産業界が一斉に大学教養体育に支援を開始した。教育環境は著しい改善傾向にあり、教育 以外の副次的・波及的な効果として、大学・学生と地域社会、産業が連携した有用な成果が見られる様になっている。こう した新しい動きを軌道に乗せて行くには、大学体育以外の他分野の教員や事務系職員の理解はもちろん、連携によってもた らされる教育のアウトカムズについて検証する新たな学術的な枠組み(連携教育科学)が必要である。

 

青森県の特徴を踏まえた弘前大学の雇用に関する取り組み

工藤裕介・内山大史(弘前大学)
論文要旨▼
弘前大学では、平成27 年度に採択された文部科学省「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」を行ってい る。この事業は、大学生の青森県内での就職及び定着を目的としており、そのために学生の就職や起業の支援、及び企業の 産業創出に関する事業等を実施している。本稿は、青森県の特徴である農林水産分野及び中小企業に焦点を当て、上記目的 を実現するための2 つの取り組みを紹介している。1 つは、大学の農林水産分野の研究成果を活用し、青森県内で雇用の受け 皿を生み出す取り組み、2 つ目は、大学生が青森県内の企業に1 ヶ月から1 年間(中長期間)入り込み、企業の事業や課題に 経営者等と取り組む共育型インターンシップである。

 

伝統的工芸品産業の発展促進要因に関する予備的調査: 東京での展示・イベント会場でのフィールドワークから

黒沢侑子 江川緑 (東京工業大学大学院)
論文要旨▼
都市において消費者が伝統的工芸品産業に触れる場を設けることは、伝統的工芸品の魅力や価値に対する消費者の理 解に発展し、購入の機会につながるだけでなく、現代のライフスタイルに合ったニーズの把握や、新たな作品の着想を得る といった役割も大きいと考えられる。さらに、多くの人の目に触れることで、潜在的な伝統的工芸品産業の担い手に職人と いう職業選択肢を提示することも可能である。産地に密着し発展してきた伝統的工芸品産業の活性化は、その地域全体の活 性化に大きく貢献することが期待される。本研究は、伝統的工芸品産業に関わる都市部でのイベントが後継者問題に影響を 与え、地方活性化を刺激しうる可能性を、予備的調査として示唆したものである。

 

大規模稲作農業経営体におけるスマート農業技術の適用可能性 ―茨城県モニター農業経営体の事例―

軍司聖詞(早稲田大学)
論文要旨▼
本研究は、稲作地域の活性化には、稲作農業経営体の経済性を改善し、若中年農業者の就農を促進することが不可欠であ るとの問題意識から、近年とみに注目を集めているスマート農業技術に着目し、その活用が十分な経済性を稲作農業経営体 経営に付与するかどうか、その展望をスマート農業技術メーカーのモニター農業経営体にヒアリング調査を行って考察し た。調査結果から、スマート農業技術の活用によって生産の省力化と生産物の高品質化が達成されることにより、十分な経 済性を有する稲作経営が可能であることが理解された一方、盗難リスクが高い据え置き型センサー等を大規模に設置するこ とが困難であるなど、農村社会のあり方が課題となっていることが分かった。

 

消費行動調査に基づく地域外消費の要因分析と「消費取り戻し」の経済効果把握

佐々木 康朗(北陸先端科学技術大学院大学)
論文要旨▼
地域経済の持続可能性を高めるには、地域経済循環の観点が重要である。本稿の事例対象とする石川県能美市では、 多額の民間消費の市外への流出が経済循環上の大きな課題である。本研究では、市民へのアンケート調査によってその実態 を詳細に把握し、特に食料品の買物について、市外消費の要因を分析した。統計的分析の結果、買物に行く人の性別、就業 状況、および居住地が有意に影響していることが分かった。さらに、同調査の回答に基づき、それらが消費先の選択に影響 を及ぼす理由を分析した。また、産業連関分析により、食料品の市内消費率向上の経済波及効果も算出した。

 

地域おこし協力隊の心的変化パターンとその要因分析

笹川貴吏子*1、秋吉直樹*2、佐藤恒平*3、日影詩織*4、藤井裕也*5、中嶋聞多*6
*1立教大学大学院社会学研究科、*2香川県地域活力推進課、*3まよひが企画
*4長野県小布施町地域おこし協力隊、*5山村エンタープライズ、*6地域活性機構
論文要旨▼
本研究は、地域おこし協力隊の活動の中で生じる心的変化とその要因を、元隊員の語りから明らかにすることで、地域お こし協力隊制度への提言を試みるとともに、地域おこし協力隊制度を活用した地域づくりへの貢献を目的としている。地域 おこし協力隊員が置かれる環境や活動内容は様々であるが、元隊員 8 名への聞き取り調査の結果、隊員の心的変化について は共通する6 つのパターンが窺えた。それらの心的変化を整理し、要因を分析してみると、隊員が現場で直面する課題には、 ある程度共通した対策を考えられることがわかった。以上の研究成果をもとに、地域おこし協力隊の心的変化パターンとそ の要因分析を「KIMOCHI6」としてまとめ、提案を行った。

 

「子ども食堂」の歴史的背景に於ける一考察

佐藤由美子(中国短期大学)
論文要旨▼
本研究では、子ども食堂を取り上げる。歴史的背景から見ると「子どもの貧困対策」から始まったが、子ども食堂に行くこ とで、周囲から貧困家庭の子どもとみなされ、行きづらくなることを避けるため、もっと幅広く子どもが集う場の提供とい う意味で「子どもの居場所づくり」として定着してきた。しかし、将来を担う子どもを地域で育てるためには「子ども食堂 は子どもの社会性を育む場でもある」と仮説を立て、筆者が携わる「晴れの国子ども食堂(仮称)」で、実証するとともに、 今後の展開を考察していく。

 

高輪地区における「子どもカレッジ」

崔 一英(東海大学高輪教養教育センター)、 福崎 稔(東海大学熊本教養教育センター)
論文要旨▼
東京都港区高輪地区では、近年高層マンションの建設などによって人口の増加が著しい。児童が放課後、安心して過ごせ る児童館や学童クラブの需要が増えている。このような状況の中で、高輪地区では港区、東海大学、財団法人の三者協働事 業による児童の受け皿として「たかなわ子どもカレッジ」を大学構内に設置し、約3 年にわたって運営をしてきた。2016 年度は延べ人数で約2080 人の児童がカッレジを利用し、放課後の居場所として定着してきた。本報告では、「たかなわ子ど もカレッジ」運営の実際と学生による児童向け教育支援イベントの詳細について記述する。

 

函館市における地域政策と「生活の質」に関する研究

高松宏弥(東京工業大学大学院)
論文要旨▼
本稿では、人口減少著しい函館市について論じ、「より良い」函館市の実現に向けての提案を行った。かつては北洋漁業 や造船業で栄えた函館市だが、国内外の外的要因に影響を受け、基盤産業の衰退や人口減少の深刻化などの問題に直面し、 現在は「消滅可能性都市」、「最も幸福度が低い中核市」として、早急な政策的対応が求められている。本研究では、今日の 都市計画に対応した、「生活の質」にまつわる人口、経済、健康、教育、環境からなる5 つの指標を用い、これまで函館市 が独自に策定・実施してきた総合計画のレビューを行った。人口学的・経済的な問題に留まらない函館市の衰退要因を明ら かにし、今後実施すべき効果的な施策を提案した。

 

里地・里山における体験プログラムによる活性化の実態 ―栃木県「ツインリンクもてぎ」の「ハローウッズ」を例として―

田中 美香
論文要旨▼
本研究は、中山間地域における地域活性化として企業経営による継続的な里地・里山の運営方法や活用実態と、それ を購入するプログラム利用者の実態を明らかにすることを目的とした。調査手法は、資料調査・聞き取り調査・参与観察で ある。その結果、①入場料の設定、②予約制プログラムと当日申込プログラムの提供、③有料・無料の日帰り型プログラム と有料の宿泊型プログラム、④幅広い内容のプログラムの提供が必要であることが明らかとなった。また、繁忙期は5 月と 7-8 月である。代表的なプログラム利用者は、ファミリーやグループとなっている。日帰り型の利用者は施設県内とその隣 接県在住者、宿泊型の利用者は広範囲な都道府県に在住していた。

 

域学連携教育がもたらす、企業人材育成への影響について ―AI時代における人材開発のヒントを探るー

田原洋樹 (明星大学 経営学部 特任准教授)
論文要旨▼
域学連携の取り組みが、さまざまな地域で展開されており、その成果も増えつつある。一定の教育的効果はみられるもの の、持続性やビジネス創出といったレベルまでは、いくつかの課題が存在するのも実状である。G型・L型(1)の大学選別 が議論される昨今、今後域学連携が企業人材育成へ好影響を及ぼす可能性は高い。本稿においては、本格的なAI時代を迎 え、企業の人材開発におけるヒントを域学連携から探ることを目的とする。 総務省から発表された『「域学連携」地域づくり活動実態調査結果』から、得られた教育上の成果を抽出し、経済産業省 が掲げる「社会人基礎力」の3 つの能力、12 の能力要素に整理する。さらには、AI 時代に必要とされる能力と照らし合わ せて、この先の我が国において、企業人材育成に必要な能力が、域学連携活動によって、どの程度習得可能なのかを考察す る。

 

地方自治体の環境適応力に関する一考察 -組織文化とダイバーシティの視点から-

出相貴裕(山口県柳井市役所)
論文要旨▼
外部環境が大きく変化する中、自治体は組織としての柔軟性や自立性を高め、環境適応力の向上を図らない限り、長 期的な存続・成長を遂げることが難しくなる。そこで、リサーチクエスチョンを「自治体が、環境適応力を向上させるため の鍵概念は何か」と設定した。そして、組織文化が環境適応力の向上の阻害要因となっていること、組織文化の変革にはそ の影響を受けていない異質な人材を組織内に取り込み、深層的ダイバーシティの拡大を図ることが有効であるという示唆を 得ることができた。

 

小規模製造企業の地域貢献活動とその動機

中川 衛(青森中央学院大学)
論文要旨▼
地域にとって、企業は重要な地域資源でもあるといえる。企業には経済的側面だけでなく社会的な側面もある。全企業数 のうちの 8 割以上を占める小規模企業が少しずつ地域貢献活動をおこなえば、地域を活性化させ、地域の持続可能性を高め ることにつながるのかもしれない。特に、製造業は外部不経済を及ぼし得る影響から、かえって企業が非経済的な部分で地 域に貢献しようとするかもしれない。本稿では、小規模製造企業の地域貢献活動の内容を整理し、その活動をするに至った 動機を明らかにする。 既往資料の 2 次情報をもとにした分析の結果から、小規模製造企業は、経営者の地域への強い思いによって地域貢献活動 がおこわなれていることが認められた。

 

大河ドラマ「炎立つ」(1993 後半)を活用した岩手県江刺市の地域振興

中村 容子(長崎国際大学大学院)
論文要旨▼
本稿は、大河ドラマ「炎立つ」(1993 後半)をとりあげ、舞台地およびロケ地となった岩手県奥州市江刺区(旧江刺市) における地域振興を明らかにすることを目的とした。 この結果、大河ドラマ「炎立つ」(1993)は、地域住民の意識変化に大きな役割を果たしたことが明らかになった。大河 ドラマの制作に地域住民が関わったことで、登場人物に対する意識が、放映前よりも良好に変化したことが推察でき、さら に、大河ドラマに取り上げられた伝統芸能が、全国的に認知されたことも地域住民の良好な意識変化に寄与したと考えられ る。大河ドラマを活用した地域振興では制作側と地域住民の双方が協働することが重要である。

 

ワイン産業における事業システムと企業家活動

長村 知幸(酪農学園大学)
論文要旨▼
本稿の目的は、ワイン産業の事業システムと企業家活動に関する事例分析を行うことである。北海道は、新しいワイン産 地として大きな注目を集めており、欧州系ぶどう品種の栽培適地であることから、醸造用ぶどうの生産量で全国二位を誇っ ている。2010 年以降、ブルゴーニュの著名な生産者である「ドメーヌ・ド・モンティーユ」やシリアル・アントレプレナー を数多く誘引することで、ワイン生産量で日本有数の産地になっている。事例分析の結果、北海道では、小規模な生産体制 や醸造用ぶどうの栽培適地などの魅力から、外部から高度な技能を持つ企業家的移民を引きつけてワイン産地を開かれたも のとして確立し、彼らが持つ技術や生産方法を地元のワイナリーが「模倣による学習」を行うことで、後発産地としてのキ ャッチアップが促されていることが明らかになった。

 

研究ノート:大阪中心部の酒の復活

橋本行史(関西大学大学院ガバナンス研究科)・西野宏太郎(大阪市立大学学術情報総合センター)
論文要旨▼
地域活性化の一つの方法として地域の伝統産業である酒造りが注目され、地方では復活の動きが生まれて いる。しかし 2017 年現在、酒の大量消費地である大阪市内では酒造りが行われていない。大都市中心部は様々な 理由で本格的な酒造りの復活が困難な状況に置かれているが、地域活性化を望む点では地方と変わらない。本稿 では、大阪中心部における酒造りの復活に向けての戦略を考察する。

 

今後のわが国のフードバンク活動の方向性

原田 佳子(美作大学)
論文要旨▼
食品ロスは、多くの課題を抱えており食品ロス削減は喫緊の課題である。わが国では、近年フードバンク(以下、FB)活 動が盛んになり、多くが貧困者に提供された食品を無償で分配する社会福祉を第一義としている。しかし、これでは、食品 ロスありきの活動となってしまい、フードバンク活動を推進し、食品ロスを削減するという国の筋書きと矛盾する。その要 因として、国やFB 主体者が、FB の意義と食品ロスの発生、貧困者の増加、格差拡大のメカニズムを明確に把握していない ことにあると考える。そこで、本稿では、これらの要因を明らかにし、筆者の活動事例から、わが国の今後のフードバンク の方向性を示す。

 

ブランド・ポートフォリオ戦略論の今日的地平 ~元宮崎県知事・東国原氏のブランド戦略の展開を踏まえて~

日髙光宣(宮崎産業経営大学)
論文要旨▼
プレミアム・ブランド戦略への眼差しは、「機能的価値」「情緒的価値」の 2 軸の組み合わせ に着目し、消費の二極化現象という複雑怪奇な消費行動を分類・解体し、また消費行動の豊穣 さを視覚化しえた点において評価しうる。「プレミアム価値」への着目は、新たに「ラグジュア リー価値」「アルチザン価値」概念の析出を誘発し、さらにD.A.アーカーの提唱したブラン ド・ポートフォリオ戦略」におけるブランドの動態的戦略構築へ連結させることにより、より 機動的な戦略的概念としてその重要性が注目される。

 

スポーツ鬼ごっこ全国大会における地域活性化の形成過程

平峯 佑志(一般社団法人鬼ごっこ協会)
論文要旨▼
鬼ごっこ協会が、オリジナルで開発をした「スポーツ鬼ごっこ」による全国大会は、大会開催の目的として競技性の向上 だけではなく、地域活性化を大きな主題として取り組んでいる。日本においてのスポーツの課題は、スポーツの競技性に多 くの注目が集まり、勝敗や結果に大きな比重が置かれていることにあると私は考えている。スポーツは、本来的な意味は 「気晴らしをする事、楽しむ事」のために行うものであると定義されていることからも、競い合うこと以上に、 楽しむために行うものであるはずである。スポーツ鬼ごっこ全国大会は、スポーツの本来的な意味を俘囚して行 われている。本論文では、全国大会を通じて地域活性に向けて取組んでいる事例から、スポーツの持つ多面的な 価値を見直していきたい。

 

水産養殖産地における自発的 6 次産業化のブランド戦略 ―愛媛県宇和島市蒋渕地区の取り組みの現状と課題を事例としてー

矢野邦子(愛媛大学大学院連合農学研究科)・香月敏孝(愛媛大学)
論文要旨▼
6次産業化の商品開発を進める際に重要なのがブランド戦略である。本稿は、6次産業化のブランド戦略を、「地域そのもの のブランド」と「地域の特徴を生かしたマーケットインの商品ブランド」を同時に高め、地域活性化を実現する戦略と捉え、 愛媛県水産養殖産地における取り組み事例を対象に、こうした実践の経過と成果について考察することを目的としている。 開発された商品の売上高だけでなく、その商品と地域に対して生活者1)がどのような好意を持って支持してくれているかと いった点を重視した分析を行っていく。

 

地域貢献を通じた学生教育効果と地域活性効果

高石 聖也(稲美中学校)、〇高池優奈(高知工科大学)、那須清吾(高知工科大学)
論文要旨▼
社会課題に対する関心や問題解決能力などの育成を目的とした教育活動を学生の社会貢献を通じて期待することが出来るの か、その結果、地域社会においては課題解決などの具体的効果が発現するのか。その効果の理解については生徒も教員も不確 かな状態で授業が展開されている現状がある。一方で、学生を受け入れる側の地域社会においては、どの様な効果があるのか も学生・学校と地域社会との相互作用の中で理解する必要がある。本稿では地域貢献活動を通した学習に焦点を当て、地域と 学生の相互作用を解明し、奨励されている地域貢献活動での教育効果を明らかにした。

 

協働と変化による土佐酒ブランドを守る仕組み

仙頭真穂(損保ジャパン日本興亜)、大石さやか(高知工科大学)、那須清吾(高知工科大学)
論文要旨▼
本稿は高知県の土佐酒ブランドを維持する仕組みに関する研究である。高知県では、高知県工業技術センターの働きにより、 県内全ての蔵に対して酵母が配布されており、各蔵の醸造結果に関わる情報の共有化がされている。これは他県にはない仕組 みのため「高知方式」と呼ばれている。中小の蔵が多いことから検査や開発に関わる負担を軽減する仕組みともなっており、 「土佐酒」という酒蔵群としてのブランドが維持されている。本研究では高知方式についてインタビューに基づいて記述的推 論による分析を行うとともに、この仕組みがどのようにして維持されているのかを明らかにする。

 


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地域活性学会 事務局(寺尾・堀本)
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TEL:088-821-7211

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