事例報告 |
〇 |
地域おこし協力隊制度を活用した人文学研究のアクション・リサーチとキャリア開発
石井雅巳(島根県立大学/NPO 法人bootopia)
瀬下翔太(慶應義塾大学SFC 研究所/NPO 法人bootopia)
論文要旨▼
本研究の目的は、哲学の修士号取得者がともに危機が叫ばれる地方と人文学の互恵的な関係を目指してフィールドに入り 込み、大学教員と市民との間の「中間者」として働きかけを行うことで得られた分析を提示すること、加えて、教員と市民 の間に立つことのできるコーディネーター育成の制度にかんする提言を行うことの二点である。 これまで既に様々な分野で大学と地域の連携が試みられているものの、人文学領域での成功例は希少である。そこで、学 術的価値を有しつつも、未だ分析が十分になされていない「地域資源」に着目し、人文学が果たしうる社会的意義と「地域 おこし協力隊」の新たな活用可能性を提示したい。
|
〇 |
地域ものづくり企業連携組織と会津大学の協業事例
石橋史朗(会津大学 産学イノベーションセンター)
論文要旨▼
製造業を中心とした地域の企業連携組織である会津産業ネットワークフォーラム(ANF)は、2008 年の創設以来、会員 企業間の相互連携と地域振興を目的に様々な活動を推進してきた。その中の1つとして、地元の大学である会津大学との産 学連携活動も2010 年からスタートし、7 年余りが経過した。当初、企業経営者層を中心に情報共有を目的とした活動も、 その後は製造現場を支える中堅社員の研鑽と交流の場を目指すようになるなど、活動の形態や目的も変遷を遂げている。本 稿では、このような活動形態の見直しの状況も含めて、現在までの地域連携の様子を紹介する。また、ものづくり企業と情 報通信技術に特化した大学との間の連携活動を持続させるための工夫点についても、考察した結果について述べる。
|
〇 |
地域再生におけるネットワーク構築の問題点とその解決策 ──島根県での実践活動による考察──
井上厚史(島根県立大学)、瀬下翔太(NPO 法人bootopia 代表理事)
論文要旨▼
本研究は、島根県立大学井上厚史ゼミが 2007~11年にかけて取り組んだ「銀山街道ネットワーク」の経験をもとに、中山 間地域における地域再生の問題点とその解決策について具体的かつ理論的に考察したものである。因習が根強く残り、近隣村 落との交流に消極的な中山間地域において、どうすれば広域ネットワークを構築できるのか。その解決策を発見するために、 島根県の特徴的な2つのネットワーク、および比較事例としての滋賀県高島市のネットワークを分析した結果、保守的な集落 同士をつなぐネットワークを構築するためには、地域への「共感」と「敬意」を抱いて広域的に活動できる NPO 法人が必要 不可欠なアクターであることを検証した。
|
〇 |
ICT を活用した地域交流を促進するコミュニティカフェの創造
岩垣穂大(早稲田大学人間総合研究センター)
又木倖明(早稲田大学人間科学部)
扇原 淳(早稲田大学人間科学学術院)
論文要旨▼
高齢者における社会参加の場の提供を目的としたコミュニティカフェが全国で増加している.そこで,本研究では,ICT (情報通信技術)を活用して,コミュニティカフェの利用促進を目的とした Web ページを作成・運用し,その評価を行っ た.Web上の自由記述アンケートに回答した37名182記録単位をベレルソンの内容分析によって分析した.その結果,【Web ページのレイアウトに関する指摘】,【コミュニティカフェの利用者情報に関する指摘】等の6 つのカテゴリと44 サブカテ ゴリに分類された.そこから,高齢者がコミュニティカフェを利用する際の配慮の必要性や,コミュニティカフェの利用者 情報を詳細に記述するなど工夫が重要であることが指摘された.
|
〇 |
中山間地域を舞台にした中学生・留学生・大学生が協働で行う地元観光プランの提案
上田菜央*1,横山 佑*1,岩垣穂大*1,齋藤 篤*1
カディコバ サマル*2,アマンタイ ジャナル*2,エム ナタリア*2,扇原 淳*1
*1早稲田大学、*2アル・ファラビカザフ国立大学
論文要旨▼
埼玉県皆野町三沢地区において、多世代多文化交流による中山間地域集落の活性化を目指し、大学生や留学生、地域住民 と共に地域行事や農作業等の活動を2012 年から行ってきた。今回は地元中学生、大学生、留学生による、観光プランの提案 を中心とするワークショップ型地域・国際理解教育を行った。この結果、「地域の魅力再発見」、「ワークショップデザイン」、 「異文化理解」等、参加者それぞれの立場での気づきがあり、特に大学生にとって、本活動が地域課題を把握した上での学 問的知見を活かした提案力、地域変革を実践するリーダーとしてのマインドセット醸成等の機会となっていたと考えられた。 今回明らかとなった課題を改善し、関係各所との調整を行いながら今後も継続して取り組むことを目指している。
|
〇 |
自治体間連携による新たな自治体シンクタンク -最上地域政策研究所を事例として-
小野英一(東北公益文科大学)
論文要旨▼
1990 年代以降地方分権が進展し、自治体自らが政策を企画立案し、主体的に行政運営していく時代となっている。そして そうした中、自治体において自治体シンクタンクを設置する潮流が現れている。県、市町村、一部事務組合の自治体間連携 による自治体シンクタンクという新たな取り組みを行っているのが山形県最上地域の最上地域政策研究所である。本稿では 最上地域政策研究所を事例として取り上げ、最上地域政策研究所のこれまでの2 期4 年間の取り組みを追跡し、自治体間連 携による新たな自治体シンクタンクについての事例研究報告を行う。
|
〇 |
ローカル鉄道の新しい活用の可能性に関する事例研究
金山 智子(情報科学芸術大学院大学)
論文要旨▼
車社会や少子高齢化など環境変化から厳しい経営状況にあるローカル鉄道は、旅客輸送から観光資源としての価値創出を 目指し、様々な取組みを実施している。これらの多くは課題解決としての効果は認められる一方で、取組みは画一的な内容 となる傾向があり、本来のローカル鉄道の特徴や可能性を活かしているとは言い難い。感性が経済価値を生む時代となり、 クリエイティブ・クラスとの共創によって共感を生む活用が求められる中、本研究は、樽見鉄道とクリエイティブ・クラス による新しい活用を試みた。実践を通して、新しい感性価値が新たな需要創出を促し、鉄道従事者らの意識にも影響を与え ていることが観察された。
|
〇 |
ヘルスケアビジネスリソースの地域性分析と、グローバル化による地域展開の可能性一考察
上村 一平(高知工科大学大学院)
論文要旨▼
日本は世界でも有数の高齢社会に突入している。総人口は 2010 年頃にピークアウトし、年齢別人口構成も戦後のピ ラミッド型からつぼ型へと変化している。今後は急速な少子化も相まって高齢人口が占める割合は徐々に高まり、「2050 年問 題」と言われる 2050 年には逆ピラミッド型の超高齢化社会を迎えると予想されている。高齢化に伴い日本のヘルスケアビジ ネスは急速に発展してきている。日本はその高い医療水準と長年蓄積されてきたノウハウが今後のグローバル化したビジネス 環境で大いなる強みとなる可能性を秘めている。本研究では、日本のヘルスケアビジネスリソースの地域特性の分析を行い、 地域リソースと人口減少の偏在化に着目した。さらに中国をはじめとした東アジア地域の医療ビジネスについて分析を行ない、 日本のヘルススケアビジネスのグローバル化による地域展開の可能性について考察を行った。
|
〇 |
空堀商店街における町屋再生-約10年を経て-
菊森 智絵(関西大学大学院ガバナンス研究科)
論文要旨▼
空堀商店街地区には町屋を再生した店舗が多く見られる。そのきっかけともなったからほり倶楽部の活動 は地域活性化の起爆剤として魅力ある研究サイトである。他の地域に住む「よそ者」とも言える彼らを引き付け る魅力が空堀地区にはある。周辺には上町台地の歴史的遺産だけでなく、現代的観光資源も豊富にあり、大阪空 襲を奇跡的に免れたという特別な何かがあるのかもしれない。迷路のような路地、路地裏の空間、石畳等を活用 した彼らのイベントから地域活性化の手がかりの発見を試みた。
|
〇 |
大学の教養体育授業(ゴルフ)が大学・地域・産業を繋いだ事例 -新学問領域「連携教育科学」の提案と地域活性化の可能性-
北 徹朗(武蔵野美術大学)
論文要旨▼
多くの大学の教養体育授業で「ゴルフ」は教材とされている。しかしながら、580 を超える授業のうち約530 の授業では、 大学内の施設や省スペースでプラスチックや穴あきボールを利用した体育実技で完結している。2016 年6 月27 日の産学連 携協定締結をきっかけに、ゴルフ産業界が一斉に大学教養体育に支援を開始した。教育環境は著しい改善傾向にあり、教育 以外の副次的・波及的な効果として、大学・学生と地域社会、産業が連携した有用な成果が見られる様になっている。こう した新しい動きを軌道に乗せて行くには、大学体育以外の他分野の教員や事務系職員の理解はもちろん、連携によってもた らされる教育のアウトカムズについて検証する新たな学術的な枠組み(連携教育科学)が必要である。
|
〇 |
青森県の特徴を踏まえた弘前大学の雇用に関する取り組み
工藤裕介・内山大史(弘前大学)
論文要旨▼
弘前大学では、平成27 年度に採択された文部科学省「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」を行ってい る。この事業は、大学生の青森県内での就職及び定着を目的としており、そのために学生の就職や起業の支援、及び企業の 産業創出に関する事業等を実施している。本稿は、青森県の特徴である農林水産分野及び中小企業に焦点を当て、上記目的 を実現するための2 つの取り組みを紹介している。1 つは、大学の農林水産分野の研究成果を活用し、青森県内で雇用の受け 皿を生み出す取り組み、2 つ目は、大学生が青森県内の企業に1 ヶ月から1 年間(中長期間)入り込み、企業の事業や課題に 経営者等と取り組む共育型インターンシップである。
|
〇 |
伝統的工芸品産業の発展促進要因に関する予備的調査: 東京での展示・イベント会場でのフィールドワークから
黒沢侑子 江川緑 (東京工業大学大学院)
論文要旨▼
都市において消費者が伝統的工芸品産業に触れる場を設けることは、伝統的工芸品の魅力や価値に対する消費者の理 解に発展し、購入の機会につながるだけでなく、現代のライフスタイルに合ったニーズの把握や、新たな作品の着想を得る といった役割も大きいと考えられる。さらに、多くの人の目に触れることで、潜在的な伝統的工芸品産業の担い手に職人と いう職業選択肢を提示することも可能である。産地に密着し発展してきた伝統的工芸品産業の活性化は、その地域全体の活 性化に大きく貢献することが期待される。本研究は、伝統的工芸品産業に関わる都市部でのイベントが後継者問題に影響を 与え、地方活性化を刺激しうる可能性を、予備的調査として示唆したものである。
|
〇 |
大規模稲作農業経営体におけるスマート農業技術の適用可能性 ―茨城県モニター農業経営体の事例―
軍司聖詞(早稲田大学)
論文要旨▼
本研究は、稲作地域の活性化には、稲作農業経営体の経済性を改善し、若中年農業者の就農を促進することが不可欠であ るとの問題意識から、近年とみに注目を集めているスマート農業技術に着目し、その活用が十分な経済性を稲作農業経営体 経営に付与するかどうか、その展望をスマート農業技術メーカーのモニター農業経営体にヒアリング調査を行って考察し た。調査結果から、スマート農業技術の活用によって生産の省力化と生産物の高品質化が達成されることにより、十分な経 済性を有する稲作経営が可能であることが理解された一方、盗難リスクが高い据え置き型センサー等を大規模に設置するこ とが困難であるなど、農村社会のあり方が課題となっていることが分かった。
|
〇 |
消費行動調査に基づく地域外消費の要因分析と「消費取り戻し」の経済効果把握
佐々木 康朗(北陸先端科学技術大学院大学)
論文要旨▼
地域経済の持続可能性を高めるには、地域経済循環の観点が重要である。本稿の事例対象とする石川県能美市では、 多額の民間消費の市外への流出が経済循環上の大きな課題である。本研究では、市民へのアンケート調査によってその実態 を詳細に把握し、特に食料品の買物について、市外消費の要因を分析した。統計的分析の結果、買物に行く人の性別、就業 状況、および居住地が有意に影響していることが分かった。さらに、同調査の回答に基づき、それらが消費先の選択に影響 を及ぼす理由を分析した。また、産業連関分析により、食料品の市内消費率向上の経済波及効果も算出した。
|
〇 |
地域おこし協力隊の心的変化パターンとその要因分析
笹川貴吏子*1、秋吉直樹*2、佐藤恒平*3、日影詩織*4、藤井裕也*5、中嶋聞多*6
*1立教大学大学院社会学研究科、*2香川県地域活力推進課、*3まよひが企画
*4長野県小布施町地域おこし協力隊、*5山村エンタープライズ、*6地域活性機構
論文要旨▼
本研究は、地域おこし協力隊の活動の中で生じる心的変化とその要因を、元隊員の語りから明らかにすることで、地域お こし協力隊制度への提言を試みるとともに、地域おこし協力隊制度を活用した地域づくりへの貢献を目的としている。地域 おこし協力隊員が置かれる環境や活動内容は様々であるが、元隊員 8 名への聞き取り調査の結果、隊員の心的変化について は共通する6 つのパターンが窺えた。それらの心的変化を整理し、要因を分析してみると、隊員が現場で直面する課題には、 ある程度共通した対策を考えられることがわかった。以上の研究成果をもとに、地域おこし協力隊の心的変化パターンとそ の要因分析を「KIMOCHI6」としてまとめ、提案を行った。
|
〇 |
「子ども食堂」の歴史的背景に於ける一考察
佐藤由美子(中国短期大学)
論文要旨▼
本研究では、子ども食堂を取り上げる。歴史的背景から見ると「子どもの貧困対策」から始まったが、子ども食堂に行くこ とで、周囲から貧困家庭の子どもとみなされ、行きづらくなることを避けるため、もっと幅広く子どもが集う場の提供とい う意味で「子どもの居場所づくり」として定着してきた。しかし、将来を担う子どもを地域で育てるためには「子ども食堂 は子どもの社会性を育む場でもある」と仮説を立て、筆者が携わる「晴れの国子ども食堂(仮称)」で、実証するとともに、 今後の展開を考察していく。
|
〇 |
高輪地区における「子どもカレッジ」
崔 一英(東海大学高輪教養教育センター)、 福崎 稔(東海大学熊本教養教育センター)
論文要旨▼
東京都港区高輪地区では、近年高層マンションの建設などによって人口の増加が著しい。児童が放課後、安心して過ごせ る児童館や学童クラブの需要が増えている。このような状況の中で、高輪地区では港区、東海大学、財団法人の三者協働事 業による児童の受け皿として「たかなわ子どもカレッジ」を大学構内に設置し、約3 年にわたって運営をしてきた。2016 年度は延べ人数で約2080 人の児童がカッレジを利用し、放課後の居場所として定着してきた。本報告では、「たかなわ子ど もカレッジ」運営の実際と学生による児童向け教育支援イベントの詳細について記述する。
|
〇 |
函館市における地域政策と「生活の質」に関する研究
高松宏弥(東京工業大学大学院)
論文要旨▼
本稿では、人口減少著しい函館市について論じ、「より良い」函館市の実現に向けての提案を行った。かつては北洋漁業 や造船業で栄えた函館市だが、国内外の外的要因に影響を受け、基盤産業の衰退や人口減少の深刻化などの問題に直面し、 現在は「消滅可能性都市」、「最も幸福度が低い中核市」として、早急な政策的対応が求められている。本研究では、今日の 都市計画に対応した、「生活の質」にまつわる人口、経済、健康、教育、環境からなる5 つの指標を用い、これまで函館市 が独自に策定・実施してきた総合計画のレビューを行った。人口学的・経済的な問題に留まらない函館市の衰退要因を明ら かにし、今後実施すべき効果的な施策を提案した。
|
〇 |
里地・里山における体験プログラムによる活性化の実態 ―栃木県「ツインリンクもてぎ」の「ハローウッズ」を例として―
田中 美香
論文要旨▼
本研究は、中山間地域における地域活性化として企業経営による継続的な里地・里山の運営方法や活用実態と、それ を購入するプログラム利用者の実態を明らかにすることを目的とした。調査手法は、資料調査・聞き取り調査・参与観察で ある。その結果、①入場料の設定、②予約制プログラムと当日申込プログラムの提供、③有料・無料の日帰り型プログラム と有料の宿泊型プログラム、④幅広い内容のプログラムの提供が必要であることが明らかとなった。また、繁忙期は5 月と 7-8 月である。代表的なプログラム利用者は、ファミリーやグループとなっている。日帰り型の利用者は施設県内とその隣 接県在住者、宿泊型の利用者は広範囲な都道府県に在住していた。
|
〇 |
域学連携教育がもたらす、企業人材育成への影響について ―AI時代における人材開発のヒントを探るー
田原洋樹 (明星大学 経営学部 特任准教授)
論文要旨▼
域学連携の取り組みが、さまざまな地域で展開されており、その成果も増えつつある。一定の教育的効果はみられるもの の、持続性やビジネス創出といったレベルまでは、いくつかの課題が存在するのも実状である。G型・L型(1)の大学選別 が議論される昨今、今後域学連携が企業人材育成へ好影響を及ぼす可能性は高い。本稿においては、本格的なAI時代を迎 え、企業の人材開発におけるヒントを域学連携から探ることを目的とする。 総務省から発表された『「域学連携」地域づくり活動実態調査結果』から、得られた教育上の成果を抽出し、経済産業省 が掲げる「社会人基礎力」の3 つの能力、12 の能力要素に整理する。さらには、AI 時代に必要とされる能力と照らし合わ せて、この先の我が国において、企業人材育成に必要な能力が、域学連携活動によって、どの程度習得可能なのかを考察す る。
|
〇 |
地方自治体の環境適応力に関する一考察 -組織文化とダイバーシティの視点から-
出相貴裕(山口県柳井市役所)
論文要旨▼
外部環境が大きく変化する中、自治体は組織としての柔軟性や自立性を高め、環境適応力の向上を図らない限り、長 期的な存続・成長を遂げることが難しくなる。そこで、リサーチクエスチョンを「自治体が、環境適応力を向上させるため の鍵概念は何か」と設定した。そして、組織文化が環境適応力の向上の阻害要因となっていること、組織文化の変革にはそ の影響を受けていない異質な人材を組織内に取り込み、深層的ダイバーシティの拡大を図ることが有効であるという示唆を 得ることができた。
|
〇 |
小規模製造企業の地域貢献活動とその動機
中川 衛(青森中央学院大学)
論文要旨▼
地域にとって、企業は重要な地域資源でもあるといえる。企業には経済的側面だけでなく社会的な側面もある。全企業数 のうちの 8 割以上を占める小規模企業が少しずつ地域貢献活動をおこなえば、地域を活性化させ、地域の持続可能性を高め ることにつながるのかもしれない。特に、製造業は外部不経済を及ぼし得る影響から、かえって企業が非経済的な部分で地 域に貢献しようとするかもしれない。本稿では、小規模製造企業の地域貢献活動の内容を整理し、その活動をするに至った 動機を明らかにする。 既往資料の 2 次情報をもとにした分析の結果から、小規模製造企業は、経営者の地域への強い思いによって地域貢献活動 がおこわなれていることが認められた。
|
〇 |
大河ドラマ「炎立つ」(1993 後半)を活用した岩手県江刺市の地域振興
中村 容子(長崎国際大学大学院)
論文要旨▼
本稿は、大河ドラマ「炎立つ」(1993 後半)をとりあげ、舞台地およびロケ地となった岩手県奥州市江刺区(旧江刺市) における地域振興を明らかにすることを目的とした。 この結果、大河ドラマ「炎立つ」(1993)は、地域住民の意識変化に大きな役割を果たしたことが明らかになった。大河 ドラマの制作に地域住民が関わったことで、登場人物に対する意識が、放映前よりも良好に変化したことが推察でき、さら に、大河ドラマに取り上げられた伝統芸能が、全国的に認知されたことも地域住民の良好な意識変化に寄与したと考えられ る。大河ドラマを活用した地域振興では制作側と地域住民の双方が協働することが重要である。
|
〇 |
ワイン産業における事業システムと企業家活動
長村 知幸(酪農学園大学)
論文要旨▼
本稿の目的は、ワイン産業の事業システムと企業家活動に関する事例分析を行うことである。北海道は、新しいワイン産 地として大きな注目を集めており、欧州系ぶどう品種の栽培適地であることから、醸造用ぶどうの生産量で全国二位を誇っ ている。2010 年以降、ブルゴーニュの著名な生産者である「ドメーヌ・ド・モンティーユ」やシリアル・アントレプレナー を数多く誘引することで、ワイン生産量で日本有数の産地になっている。事例分析の結果、北海道では、小規模な生産体制 や醸造用ぶどうの栽培適地などの魅力から、外部から高度な技能を持つ企業家的移民を引きつけてワイン産地を開かれたも のとして確立し、彼らが持つ技術や生産方法を地元のワイナリーが「模倣による学習」を行うことで、後発産地としてのキ ャッチアップが促されていることが明らかになった。
|
〇 |
研究ノート:大阪中心部の酒の復活
橋本行史(関西大学大学院ガバナンス研究科)・西野宏太郎(大阪市立大学学術情報総合センター)
論文要旨▼
地域活性化の一つの方法として地域の伝統産業である酒造りが注目され、地方では復活の動きが生まれて いる。しかし 2017 年現在、酒の大量消費地である大阪市内では酒造りが行われていない。大都市中心部は様々な 理由で本格的な酒造りの復活が困難な状況に置かれているが、地域活性化を望む点では地方と変わらない。本稿 では、大阪中心部における酒造りの復活に向けての戦略を考察する。
|
〇 |
今後のわが国のフードバンク活動の方向性
原田 佳子(美作大学)
論文要旨▼
食品ロスは、多くの課題を抱えており食品ロス削減は喫緊の課題である。わが国では、近年フードバンク(以下、FB)活 動が盛んになり、多くが貧困者に提供された食品を無償で分配する社会福祉を第一義としている。しかし、これでは、食品 ロスありきの活動となってしまい、フードバンク活動を推進し、食品ロスを削減するという国の筋書きと矛盾する。その要 因として、国やFB 主体者が、FB の意義と食品ロスの発生、貧困者の増加、格差拡大のメカニズムを明確に把握していない ことにあると考える。そこで、本稿では、これらの要因を明らかにし、筆者の活動事例から、わが国の今後のフードバンク の方向性を示す。
|
〇 |
ブランド・ポートフォリオ戦略論の今日的地平 ~元宮崎県知事・東国原氏のブランド戦略の展開を踏まえて~
日髙光宣(宮崎産業経営大学)
論文要旨▼
プレミアム・ブランド戦略への眼差しは、「機能的価値」「情緒的価値」の 2 軸の組み合わせ に着目し、消費の二極化現象という複雑怪奇な消費行動を分類・解体し、また消費行動の豊穣 さを視覚化しえた点において評価しうる。「プレミアム価値」への着目は、新たに「ラグジュア リー価値」「アルチザン価値」概念の析出を誘発し、さらにD.A.アーカーの提唱したブラン ド・ポートフォリオ戦略」におけるブランドの動態的戦略構築へ連結させることにより、より 機動的な戦略的概念としてその重要性が注目される。
|
〇 |
スポーツ鬼ごっこ全国大会における地域活性化の形成過程
平峯 佑志(一般社団法人鬼ごっこ協会)
論文要旨▼
鬼ごっこ協会が、オリジナルで開発をした「スポーツ鬼ごっこ」による全国大会は、大会開催の目的として競技性の向上 だけではなく、地域活性化を大きな主題として取り組んでいる。日本においてのスポーツの課題は、スポーツの競技性に多 くの注目が集まり、勝敗や結果に大きな比重が置かれていることにあると私は考えている。スポーツは、本来的な意味は 「気晴らしをする事、楽しむ事」のために行うものであると定義されていることからも、競い合うこと以上に、 楽しむために行うものであるはずである。スポーツ鬼ごっこ全国大会は、スポーツの本来的な意味を俘囚して行 われている。本論文では、全国大会を通じて地域活性に向けて取組んでいる事例から、スポーツの持つ多面的な 価値を見直していきたい。
|
〇 |
水産養殖産地における自発的 6 次産業化のブランド戦略 ―愛媛県宇和島市蒋渕地区の取り組みの現状と課題を事例としてー
矢野邦子(愛媛大学大学院連合農学研究科)・香月敏孝(愛媛大学)
論文要旨▼
6次産業化の商品開発を進める際に重要なのがブランド戦略である。本稿は、6次産業化のブランド戦略を、「地域そのもの のブランド」と「地域の特徴を生かしたマーケットインの商品ブランド」を同時に高め、地域活性化を実現する戦略と捉え、 愛媛県水産養殖産地における取り組み事例を対象に、こうした実践の経過と成果について考察することを目的としている。 開発された商品の売上高だけでなく、その商品と地域に対して生活者1)がどのような好意を持って支持してくれているかと いった点を重視した分析を行っていく。
|
〇 |
地域貢献を通じた学生教育効果と地域活性効果
高石 聖也(稲美中学校)、〇高池優奈(高知工科大学)、那須清吾(高知工科大学)
論文要旨▼
社会課題に対する関心や問題解決能力などの育成を目的とした教育活動を学生の社会貢献を通じて期待することが出来るの か、その結果、地域社会においては課題解決などの具体的効果が発現するのか。その効果の理解については生徒も教員も不確 かな状態で授業が展開されている現状がある。一方で、学生を受け入れる側の地域社会においては、どの様な効果があるのか も学生・学校と地域社会との相互作用の中で理解する必要がある。本稿では地域貢献活動を通した学習に焦点を当て、地域と 学生の相互作用を解明し、奨励されている地域貢献活動での教育効果を明らかにした。
|
〇 |
協働と変化による土佐酒ブランドを守る仕組み
仙頭真穂(損保ジャパン日本興亜)、大石さやか(高知工科大学)、那須清吾(高知工科大学)
論文要旨▼
本稿は高知県の土佐酒ブランドを維持する仕組みに関する研究である。高知県では、高知県工業技術センターの働きにより、 県内全ての蔵に対して酵母が配布されており、各蔵の醸造結果に関わる情報の共有化がされている。これは他県にはない仕組 みのため「高知方式」と呼ばれている。中小の蔵が多いことから検査や開発に関わる負担を軽減する仕組みともなっており、 「土佐酒」という酒蔵群としてのブランドが維持されている。本研究では高知方式についてインタビューに基づいて記述的推 論による分析を行うとともに、この仕組みがどのようにして維持されているのかを明らかにする。
|