●地方民芸館の展開と可能性―愛媛民芸館の取り組みを事例として
梶谷 崇(北海道科学大学)・坂井 俊文(北海道科学大学)
本稿はコロナ禍にも関わらず入館者数を増加させている愛媛民芸館(愛媛県西条市)に注目し、地方における文化施設の運営事例を紹介し、考察するものである。本研究においては愛媛民芸館の協力を得て、関係者へのインタビューの機会および内部文書記録の提供を受けた。それらの言説や文書記録をもとに、愛媛民芸館の成立事情、時代背景の再整理、および現在の館の運営面における改革や新たな事業への取り組みについて情報整理を行った。愛媛民芸館は設置後約50年が経過し運営面で様々な課題を抱えていたが、2020年以降運営形態や財政面、事業において改革を重ねた結果、スポンサー等会員数や入館者数の回復や運営財政面での安定化を実現した。愛媛民芸館が地域社会とのつながりを強化し、地域活性化に向けた取り組みを展開したことが、地域社会からの理解や支援につながっていることを明らかにした。
●地域住民主導の子育て支援の社会的意義に関する考察
論文要旨▼
都市部では住民間の関係性の希薄化が進行しており、地域社会から孤立して子育てする「孤育て」が生じている。本稿では子育て支援施設に着目し、子育て支援施設空白地に親子が気兼ねなく集まれる「キッズルーム・プロジェクト」を設定した。「公」である自治体と「私」である地域住民が、子育て世代を支援するという共通の目的を設定し、公と私の双方が連携・協働して子育て支援を行うことにより「公共」の涵養という課題に取り組んだ事例研究である。結論として、子育て世代は集まっては来たが、利用者間の交流は生まれず今後の課題となった。しかし、「公」と「私」による「公共」の涵養に取り組むという一定の成果はみられた。
●女性が活躍する過疎農村地域の特徴とその効果
-島根県過疎地域の事例-
品川隆博(島根県立大学大学院博士前期課程)
論文要旨▼
過疎農村地域は、人口減少により地域の担い手が不足し、高齢単身世帯や高齢夫婦世帯の割合が増加する傾向にあるため、多様な人々が関わり支え合う地域社会が求められている。本研究では、女性が主体的に活動している2地域を事例に、共通する要素及び女性の地域づくりへの関わりを明らかにする。研究方法は、筆者自身が地域づくりの実践者としてのアクションリサーチの手法とインタビュー調査により、地域づくり活動組織の特徴や、活動への女性の関わりなどを分析した。その結果、住民主体による支え合いの仕組みには、地域づくり活動組織の人材、活動プロセス、女性との協働があることが明らかになった。
●中山間地域における移住者の実態と移住支援に関する研究
-和歌山県紀美野町における移住者へのインタビュー調査を事例に-
薗 諸栄(追手門学院大学大学院経営・経済研究科)
論文要旨▼
近年、多くの地方自治体では移住促進に向けた支援策が進んでいる。 先行研究では、移住者の意識や課題、地域振興における中間組織の役割が重要だと指摘されてきたが、地方自治体の移住支援策が移住者の定住や生活向上にどの程度寄与しているかは確認されていない。本研究では、和歌山県紀美野町を事例として、移住者と自治体や地域住民との関係、中山間地域での生活、また移住後に直面する課題や困難についてインタビュー調査を通じて調査した。調査の結果、移住者と地域住民との関係が比較的良好であることが示唆された。宿泊業や地域活性化プロジェクトを通じて、地域住民とのコミュニケーションが深まっていることが明らかになった。
●地域づくり計画に関する大学と住民との協働プロセス-
長尾敦史(高知工科大学工学研究科博士後期課程)
論文要旨▼
本研究では、地域コミュニティ協議会が大学と住民と協働して実施した地域づくり計画策定の事例である。計画策定前からの活動および策定期の活動における協働プロセスを報告する。
●高齢期の顕在的ギャンブル行動
―定性調査をふまえて―
福井 弘教(横浜国立大学大学院 環境情報学府)
論文要旨▼
本研究は、高齢者の顕在的ギャンブル行動の実態を行動観察法によって性差に焦点をあてて明らかにすることを目的とした。考察の結果、ギャンブル行動には、「日常」と「非日常」の側面があり、来場・来店の契機、ギャンブル行動・付随行動、そして、結果が伴う。そして、公営競技への参加はパチンコと比較すると多様な行動となり人的交流の確度が高まる。高齢者の場合、顕在的に明らかに男性参加が多く、ギャンブル行動にあたり、多くのラベル(概念)が生成された。男性が主流のリアル空間に女性が参加することは困難であると考えられる。女性のラベル数は限定されているものの、生成されたカテゴリー数にラベルほどの差はなく、潜在的な参加をふくめて、数値ほどの性差はないと考えられた。
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