●地方自治体におけるコワーキングスペースの運営実態に関する研究
薗 諸栄(追手門学院大学大学院経営・経済研究科)
本研究では働き方改革の観点からテレワークが推奨される中で、地方自治体のコワーキングスペースの運営実態を明らかにする。研究手法としては地域においてコワーキングスペースを開設する地方自治体にその取り組み状況に関するアンケートを実施し、開設の状況、イベント交流、実施利用者の実態、連携している企業・団体を明らかにすることを目的としている。本研究の結果、コワーキングスペースの設置による影響として関係人口の増加、ベンチャー企業の設立など地域社会に対して影響を持っていることが明らかになった。
●自治体のサテライトオフィス誘致に関する実証研究
論文要旨▼
本研究では、新型コロナウイルス感染症の拡大によって柔軟な働き方に関心が高まり、都市部からの人の流れを創出するために自治体がサテライトオフィスを誘致する目的やその手法を明らかにすることである。研究手法としては地域においてサテライトオフィスを誘致する自治体にその取り組み状況に関するアンケート調査を実施し、その結果を整理する。研究の結果、自治体が誘致したい企業規模は中規模な企業や都市部の企業で、職種としては情報サービス業であることが明らかになった。
●総社市の移住促進を狙うPR動画における、テーマ設定と視聴者の移住意向に関する実践的研究
髙橋 俊臣(岡山県立大学)
論文要旨▼
地域で制作されているPR動画は、そのほとんどが認知向上を目的とし、話題化を狙ったものが多い。一般的なマーケティング・コミュニケーションは消費行動の初期段階である注意や認知をコミュニケーション目標とし、段階を経て行動に導いていく。しかし、地域が抱える人口減少問題は深刻で急いで取り組む必要がある。仮にPR動画が注意や認知を超えて移住行動へアプローチできれば、地域活性に特化した行動プロセスに迫ることができ、問題解決への大きな力になる。そこで本研究では、まず、移住を目的としたコミュニケーションの接触から行動までのプロセスについて先行研究の調査と考察を行い、新たな定義を試みた。そして、岡山県総社市のPR動画を2年にわたって2本制作し公開した。その後、アンケートによってPR動画による移住意向への影響とテーマ設定との関係性を分析した。
●シェアリングエコノミーを活用した地域活性化に関する研究
〜福井県永平寺町を対象として〜
論文要旨▼
(一社)シェアリングエコノミー協会では、シェアリングエコノミーの定義を「インターネットを介して個人と個人の間で使っていないモノ・場所・技能などを貸し借りするサービスです。」としている。一方、日本では「互助・共助の姿勢」が存在している。また、農村部を中心として生産から消費まで生活圏での循環型社会が構成されている。本研究では、この人的かつ社会的関係も「田舎版シェアリングエコノミー」ではないかと捉えている。そこで、本研究では、シェアリングエコノミーと「田舎版シェアリングエコノミー」を活用した地域活性化に関して、福井県永平寺町での実証からみえる成果と課題をまとめる事を目的とする。その結果、福井県永平寺町において、シェアリングエコノミーの用語自体を知らない、または、プラットフォーム自体のコミュニティが小さく、サービスを享受する者が圧倒的に少ない等の課題が山積している事がわかった。
●首都圏在住高齢者のギャンブル行動特性
-定量調査をふまえて-
福井 弘教(横浜国立大学大学院 環境情報学府)
論文要旨▼
本研究は、高齢者のレジャー行動の一環であるギャンブル行動の実態を性差に焦点をあてて明らかにする
ことを目的とした。首都圏在住の高齢者1044名に対する調査の結果、高齢者全般に関する知見としては、1)ギ
ャンブル行動はレジャーのなかで特異な位置づけではあるが障壁は高くない。2)ギャンブル行動が多様な条件
下(目的)を契機としても、ギャンブル依存症に罹患する可能性があるという示唆が得られた。3)ギャンブル
行動において、他者との「交流」は必ずしも重視されていないことが示唆された。4)参加要因の主流は、「儲か
る可能性がある」ことから参加していたことが、自由記述回答からも明らかとなった。通常、レジャー行動は金
銭を消費することはあっても増加することはないが、ギャンブル行動においては、金銭を増やせる可能性を含意
している。それがギャンブルの魅力であるといえよう。他方、性差に関する知見としては、1)活動的であるの
は男性だが、ギャンブル志向が強いのは女性であった。男性は「儲け」を重視して参加するが、女性は儲けを重
視するわけではない。女性の方が「儲け」、「金銭」に執着しないという示唆が得られた。2)女性は、男性と比
較するとギャンブル依存症に罹患しづらいことが示唆された。地域活性化に資する適切なレジャー行動に向けて
は、自身の経済事情などに合わせた金額を設定するなど事前の対策を網羅することで依存症などの問題行動への
架橋は遮断される可能性があると考えられた。
●地方の優位性と企業戦略
山本樹育(YAMAKIN株式会社)、那須清吾(高知工科大学)
論文要旨▼
高知県香南市に本社を置くYAMAKIN株式会社(以下、ヤマキン)は、1957年に大阪府にて創業した企業である。主に歯科医療材料の開発・生産・販売を行っている。1991年に高知工場を建設し、1995年に研究開発拠点を設け、2001年には生産拠点を大阪府から高知県に全面移転し、同社は急速に成長を遂げた。その成長メカニズムを、高知県のエコシステムを形成する企業、行政、公的機関、大学、マスコミなどのプレイヤーとの関係性の動的変化のパターンから解明した事例研究である。経営者自らの参与観察により、企業の独立性の高さや市場形態、製品特性等の変数を踏まえた記述的推論によりそのメカニズムを示した。組織がその目的を達成する為に相互に必要とする経営資源を交換する関係を構築することで、中小企業が地方のエコシステムで成長していた。中小企業にとって特定の変数において地方のエコシステムの優位性を活かせることを示したものであり、一定の変数のもとで企業戦略により中小企業が地方のエコシステムで成長する論理の一般化の可能性がある。
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